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Digital Performer(以下DP)11は、MOTU社のフラッグシップDAWであり、その歴史は前身となるPerformer時代も含めると40年近くになる大御所DAWです。
愛用ミュージシャンも大御所の方が多く、かの坂本龍一さんも使われていたとか。
昔からMIDI機能の品質に定評があり大御所御用達のDPですが、プロユースとして定着している一方、一般的なDTM層への広がりという意味では少し薄い印象にあります。
とはいえ、2022年にアップデートされた最新バージョン11.2では、ARA対応によってMelodyneが標準で使えるようになったりと、現代DAWとして必要な機能も盛り込まれるようになり、注目度が上がってきています。
そしてなにより、オーディオインターフェイスのMOTU M2及びM4が大ヒットしたことで、同梱のDPの機能制限版といえるPerformer Lite を使ってDTMを始めてみた、という方がかなり増えてきているのは事実です。
そこで今回は、筆者がDP11を使ってみて感じた”推しポイント”をいくつか紹介させていただきます。
他社DAWと比べどう違うのか、Performer Liteからアップグレードする必要があるかなどの参考になれば幸いです。
Digital Performer 11
推しポイントその1 チャンク機能
DPの最大の特徴ともいえるチャンク機能は、他社DAWにはないDP独自の特徴です。
聞き慣れない単語ですが、”Chunk”とはIT用語で『大きなデータを分割して制御情報を付加したひとまとまりの断片』という意味があり、DPのチャンク機能も一つの大きなプロジェクトという意味合いがあります。
他のDAWだと基本的にひとつのプロジェクトデータでひとつの楽曲を扱う形になりますが、
DPでは同じ楽曲の別バージョンや、全く別の楽曲を一つのプロジェクト内で扱えます。
文章だと難しそうですが、シンプルに階層(フォルダ)構造になってると考えれば簡単で、
大階層となるチャンクの下に”シーケンス”と呼ばれるいわゆるソングデータがいくつも作れる、というイメージです。
なので例えば、シーケンスを複数作っておいて同じ楽曲のアレンジパターンを比較する、ということが他のDAWよりスムーズにワンクリック操作で行えます。
さらに”V-Rack”という機能もあり、こちらも独自機能なので最初は理解が難しいのですが、全シーケンス(いわゆるソングデータ)共有のインストゥルメントやAUX(センド)トラックを作れます。
アレンジが変わっても、曲が変わったとしても使うシンセやエフェクトは変わらない、ということは往々にしてあるので、そういう時にV-Rackに一度作っておけば毎回同じものを立ち上げる必要はない、という具合です。
このチャンクとV-RackはPerformer Liteにもある機能ですが、Performer Liteは16トラックまでという制限があるので、ボーカルミックスのバージョン違いぐらいだと対応できそうですが、作編曲となるとトラック数が全然足りないです。
チャンク機能の恩恵を感じられるのはやはり大量のトラックを操作する作編曲時やパラミックスの場面なので、Performer Liteであまり活用できなかったという方もDPならまた違った印象を受けるかもしれません。
推しポイントその2 プリジェン機能
またもや聞き慣れない単語が出てきましたが、プリジェン(Pre-Gen)とはプリジェネレートの略で、プラグインをプリレンダリングし、マシン負荷を効率的に制御する機能です。
プラグインの処理はリアルタイム処理が一般的ですが、DPはプリレンダリング処理を行うことで多くのプラグインを扱った際にも安定動作を可能にしているとのこと。
これは素直に嬉しい機能ですね。
ある程度プロジェクトが重くなってきた時に、例えばCubaseだとフリーズ機能で負荷を軽減したりするんですが、MIDI編集ができなくなるので不便だったりします。
その点プリジェン機能があれば自動的に負荷を軽減してくれてMIDIも編集できるのでそこまで負荷を気にしなくてもよさそうです。
ただしAUXやマスタートラックの処理はリアルタイム処理のみとのことで、プリジェン処理になるのはトラックインサートエフェクトだけです。
どの処理がプリジェンになっているかはエフェクトパフォーマンス画面で確認可能なので、どのプラグインが重くなってるかも一目瞭然です。
推しポイントその3 カスタマイズ性
DPはカスタマイズ性に優れているので、画面レイアウトやショートカットを自分好みに設定することで、『自分専用DAW』を作ることができます。
現バージョンのUI基本設計は、1ウインドウ内にシーケンスやミキサー、イベントなどを表示させる仕様ですが、各セクションをメインウインドウから切り離して出力するなど、環境に応じたカスタムが可能です。
変更したレイアウトはショートカットに割り当てできるので、作業中にレイアウトが変わっていったとしても、戻したくなったらワンタッチで戻せるのも便利です。
また、デフォルトだとフォントが小さめに設定されているのですが、フルスケーラブルUIのため、拡大縮小もショートカットで簡単に行えます。
ただ、カスタマイズが豊富であるということは、逆に考えるとそれだけ細かい操作が必要になる、ということです。
DPはメニューやコマンド、編集ツールなど他社DAWより多くの機能が備わっている分、覚えないとスムーズに操作できないショートカットも多くあります。
多少手間は掛かりますが、全てのコマンドはショートカットにアサイン可能なので、よく使うメニューやコマンドをショートカットにアサインしさえすれば、自分が操作するためだけのDAWが完成する、というわけです。
この辺りの柔軟性、悪く言えば煩雑さがプロ仕様と呼ばれる所以だと思うのですが、DAWを複数使う際もこういったカスタマイズはすごく便利です。
私の場合、普段使ってるCubaseのショートカット構成に慣れてるので、DPを起動して最初に行ったことはショートカット設定でした。
例えばミキサー画面の呼び出しはCubaseは”F3”に設定してますが、DPのデフォルトは”Shift+M”と全く違うのでF3に合わせたり、とかですね。代わりに”Shift+M”はカスタムしたレイアウト呼び出しに使ってます。
推しポイントその4 MIDI分解能
MIDIの分解能は4分音符の長さを何Tickに分割するかで定義され、PPQで表します。一般的にはPPQ=480tickで、Cubaseは最大4000tick、Logicは960tick固定、というところですが、DPは10,000 + 小数点4位まで対応していて、圧倒的な分解能を誇っています。(デフォルトは480tick)
これはつまりリアルタイム入力した際の細かいニュアンスまで正確に表現できるということで、DPが昔からMIDIに強いと言われてる所以でもあり、多くのアーティストから支持されている大きな要因でもあります。
私のように『MIDIはほとんどクオンタイズ入力してます』という人にはあまり恩恵がないかも?と思ってしまうかもしれませんが、MIDI分解能はタイミング精度だけでなく、オートメーションにも影響してきます。
ストリングスやベースの打ち込みには細かいアーティキュレーションが必要不可欠ですが、他社DAWだと上手くニュアンスが作れないところもDPだとスムーズに表現できたりします。
推しポイントその5 出音の良さ
MIDIの性能を抜きにしても、『DPは音が良い』ということはよく耳にするので、出音をCubaseと比較するために簡単なテスト用音源を作ってみました。
Arturia Pigmentsを2つ使ったメロディとベースのみのシンプルな構成で、アーティキュレーションはほとんど使わず、両者とも全く同じセッティングと音量で書き出しています。
Cubase
DP11
いかがでしょうか?
個人的にはDPの方が音の粒が立っているというか、レンジが広がってるように聞こえした。気持ち重低音も輪郭が大きく感じます。
結構わかりやすく違いを感じたので設定間違ったかな?と何回か確認しましたが同じ設定でした。
iZotope RXに読み込ませた際にも波形は明らかに違っていて、DPの方が高域成分の密度が高いようにみえます。
Cubase
DP11
なお、MIDI分解能はCubaseは3840tick、DPは最大の10000tick+少数4位に設定しています。
正直、ここまで明確に違いが出るとは思っておらず、プロアーティストの方々が口を揃えて『DPは音が良い』と言ってるのも納得できました。
推しポイント その他
大きく5つのポイントについてレビューしましたが、DPには他にも数多くの機能が備わっていて、とても全部は紹介しきれないので、他社DAWと差別化できる特徴をいくつか挙げます。
- 最先端のオーディオストレッチ、ピッチ編集機能
自然なピッチ補正のためのツールとして”PureDSP”を搭載。
また、Zynaptiqの技術によるタイムストレッチや、ARA2サポートによってMelodyneと統合可能。
(DP11ユーザーにはMelodyne Essentialを無償提供)
- 高精度なMTC同期機能
劇伴、フィルムスコアで多用するであろうSMPTE(LTC)信号を出力するプラグインの
SMPTE-Zの実装のほか、受け取ったSMPTE信号をMTCに変換して映像機器、照明機器などとの同期可能。
- 譜面作成、MusicXMLへのエクスポート
高い精度でのMIDIレコーディング & エディットに加え、それらの譜面表示(クイックスクライブウインドウ)やPDF出力可能。SibeliusやFinaleとも連携対応。
気になった点
他を圧倒する性能と豊富な機能を有しているDP11ですが、気になった点もありました。
- 直感的操作よりも使い込みを重視した操作性
別のソフトだから当たり前だと思うかもしれませんが、少なくともCubaseとは全く操作感が違うので、本当にイチから操作を覚え直す必要がありました。
メニュー構成もパッと見でイメージできないような単語があり、例えば”トラック” ”シーケンス” がそれぞれ独立した画面になっているのですが、どちらの画面もトラックが並んでる見た目なので、用途を掴みにくいと感じました。
Cubaseだとこの2つが合わさったような画面が基本画面として見えてるイメージと理解したのですが、正直この理解が合ってるかも不安でして、その理由が次にあります。
- マニュアルが英語、ネットに情報が少ない
クイックガイド、ユーザーガイド、新機能情報などマニュアル類は豊富なのですが全て英語です。
用語検索から簡易ヘルプみたいなものは日本語で表示されるのですが、簡易な説明のため情報量が不十分と感じました。
そこでネット情報に頼ろうとしても、情報が少ないため苦戦します。
日本代理店のハイ・リゾリューション様がTips動画をいくつか上げているので、ひと通り観てようやくといったところです。
一度分かってしまえば、あるいはDPの癖を掴めばなんとかなる感じもあるので、『焦らずじっくり腰を据えて慣れていこう』という気構えが必要かなと感じました。
※旧バージョンの日本語マニュアルを入手して参照することは可能。
※ハイ・リゾリューションにユーザー登録、製品登録を済ませることで日本語マニュアルの閲覧が可能になっています。https://h-resolution.com/my-account/
まとめ
直感的操作や親切なガイドといった表面的なユーザビリティというよりも、プロがとことん使い込むために必要な機能やカスタマイズ性に重点を置いている製品だと感じました。
現在他社DAWを使っている人がいきなり完全移行するというよりは、例えばMIDI編集だけDPでやってオーディオに書き出した後は慣れてるDAWで作業する、といった並行運用期間が良いかもしれません。
実際プロの方にはDAWを場面に応じて使い分けているという方もいらっしゃるので、DAW二刀流でも全然良いですね。
総評として、やはりDPといえば圧倒的なMIDI分解能が最大のウリであり、その恩恵を一番感じれるのは、リアルタイムのMIDI入力を多用する作編曲家やピアニスト、キーボーディストの方だと思いますので、そういった方にはかなりおすすめできるDAWだと感じました。
また、私のように普段はボーカルミックスやパラミックスを主軸にしてMIDIはあまり扱わない場合においても、出音の良さは大きなポイントになりますし、チャンクやプリジェンといった独自機能に魅力がありますので、おすすめできます。
現在Performer Liteをお使いの方の場合、『ボーカル専任で作曲やミックスは全くやらないです』という方”以外”にはトラック制限の関係上、おすすめできるのですが、あとはDPの操作感やカスタマイズ性に共感できるかという部分かと思います。
カスタマイズ性が十分に高く、ショートカットを細かく設定して『自分専用DAW』を作れるのもDPの魅力のひとつなので、長く付き合えるDAWをお探しの場合は、DPを試してみても良いかもしれません。
40年近く安定してアップデートを重ねてますし、名だたる大御所がユーザとして太鼓判を押してる製品なので安心感や安定性の面で心配することはないと感じました。