Woodstock Audioは、Youtubeチャンネル登録者40万人を超えるオンラインスクール Mastering.com が立ち上げた、新興プラグインデベロッパーで、今回紹介するOpen Compressorは同社の第一弾プラグインとなります。
多くのメーカーが「アナログ名機の再現」や「一発でプロクオリティ」という方向性の製品を数多くリリースしていますが、Woodstock Audio は開発コンセプトとしては、プラグインのブラックボックスを徹底的に排除した『客観性』と『理解』を前面に打ち出しています。
同社はOpen Compressorを、「内部で何が起きているかを理解しながら音作りができるツール」と説明していることからも、Mastering.comらしい『教育用途』に特化した製品です。
本稿では、ユーザー自身のスキル向上を促すプラグインという新しいアプローチがどのようにサウンドメイキングに影響していくのかを、筆者の視点でレビューさせていただきます。
Open Compressor
◆主な特徴
Open Compressorを一言で表すと、「内部パラメータを全て可視化したモダンなデジタル系コンプ」だと思います。
波形ビジュアライザー、EQビジュアライザー、ハーモニクスビジュアライザー、ニービジュアライザーと、コントロールできるものは全て可視化しているUIが特徴的で、他のプラグインだと省略されがちなハーモニクス状況もしっかりと見せています。
基本的なコンプレッサー機能はもちろん搭載しているほか、
- オートスレッショルドによるレベル管理の半自動化
- レギュラー/オプティカルモードによるアタックリリースバリエーション
- RMS検知モードの複数選択肢
- クリッパー、リミッターのオート設定(Detect)
- エキスパンダーとアップワードが合わさったLow Level Control
- ローシェルフとハイシェルフを適用したトーンコントロール
といった独自性も十分にあり、特にオートスレッショルドは非常に良い仕上がりになっています。
オートスレッショルド
Open Compressorのオートスレッショルドは、ダイナミックレンジを%で調整するようになっていて、ダイナミックレンジ0%ならリダクションが強く掛かり、ダイナミックレンジ100%ならコンプは動作しないというものです。
この設計が素晴らしく、「どれぐらい潰したいか」を感覚的に操作できるだけでなく、1曲通して同じリダクション範囲を保つことができます。
例えば、ボーカル素材でAメロはウィスパー気味、サビは張り上げるみたいなデータの時、スレッショルドをAメロ基準で設定するとサビで過剰にリダクションされてしまうので、スレッショルドをオートメーションさせる必要があります。
セクション毎のシンプルなオートメーションならまだしも、素材によっては部分的に細かくオートメーションしないとほしい掛かり方になってくれない場合もあり、一曲通してコンプ質感を安定させるのは意外に難しかったりします。
こういった煩雑になりがちなオートメーション操作も、Open Compressorのオートスレッショルドだと最低限で済むので、コンプに苦手意識のある初心者層はもちろん、上級者の方には強力な時短ツールとして活用できると思います。
オート時の挙動も非常に自然で違和感をほとんど感じません。
オートスレッショルドを採用しているプラグインがまだ少ない中で、「ダイナミックレンジ目線で制御する」設計思想はこれからのスタンダードになり得る画期的な設計だと思いました。
全てを可視化したことによる恩恵
Open Compressorの特徴の一つに、クリッパー → リミッター → コンプ の ルーティング構成があります。
クリッパーとリミッターを「コンプの前段」に配置させることで、コンプが掛かる前に突発ピークをリミッティングさせてポンピングなどコンプ動作のデメリットになりやすい部分を和らげる、というものです。
また、アタックリリースのカーブモード選択(Regular / Optical)や、検出位置の選択(Feedforward / Feedback)もあってどの選択肢が音にどう影響するかを視覚と聴覚で判断しやすくなっています。
さらに、プリセットには往年のアナログコンプの設定を模したものが入っているので、「あのコンプはこういう挙動になってる」を学ぶことができます。
モデリングプラグインではないので、プリセット元のアナログコンプと同じ音になるということではないですが、挙動の違いを学ぶ用途としては十分だと思います。
この辺りは、本製品の開発コンセプトである「内部で何が起きているかを理解しながら音作りができるツール」を体現しているといえます。
気になった点
オートスレッショルドの画期的な使い勝手は素晴らしく、学習要素の高い設計思想も一定の評価ができますが、「全てを可視化する」コンセプトが、「迷いを生むきっかけ」になり得ることも本製品を扱う上は考慮が必要な点かなと思います。
ハーモニクスのバランスや各種挙動調整を細かく出来てしまうが故に、「どうなれば最適か」の判断に迷うこともあります。
また、ビジュアライザーを複数配置したことでUIが巨大になっていて、DAW画面の半分以上がOpen Compressor、ということも珍しくありません。
UIモードはクローズ/オープン/ウェーブフォームの3種類から選択できますしサイズもフレキシブルに調整可能なので配慮されてはいるものの、視認性やわかりやすさという点ではトレードオフになると感じました。
CPU負荷
1つのインサートでCPU負荷が5%程度、レイテンシー300 sampleと、軽い部類です。
オーバーサンプル適用時はCPU負荷15%程度、レイテンシー357 sampleとそこそこの負荷です。
オーバーサンプルの負荷が結構重たいので、使用する際は2mixやマスタリングなどでサチュレーションのエイリアスノイズを回避したい場合など、場面を限定した方が良いかと思いました。
- OS : macOS Sonoma 14.1
- CPU : Mac M2 12コア
- メモリ : 64GB
- DAW : Cubase Pro 14
- バッファサイズ : 2048samples
- サンプリングレート : 48kHz
- ビット解像度 : 32bit float
- オーディオIF : Prism Sound Lyra1
まとめ
Open Compressorを「ひとつのプラグイン」として評価するならば、クリーンな音色でオートスレッショルドが便利な万能コンプ、となりますが、本質はそこではないと感じました。
Open Compressorの本質は、「コンプを理解するためのコンプ」としてユーザーのスキルアップや、次なるアイディアの源泉となりえるところにあると思います。
音の仕上がりよりも、どういう判断でその音にたどり着いたかを重視する設計思想が、プラグインという枠を超えてユーザーのワークフローの土台を支え、新しい運用を導くような可能性を秘めていると思います。