Clarity Vx、DeReverb、Silk Vocal、IDX、Curves Equator、Sync Vxなどの開発を通じて、Wavesが新たに”EQの革命”と提唱する「Curves AQ」をリリースしました。
世界初の自律型EQとされるCurves AQは、従来のスマートEQにはなかった独自の解析機能により、音源毎に最適なサウンドを判断して5種類のプロファイルを生成します。
さらに5つの強力なEQコントロールで積極的な音作りも簡単に行えるので、これまで以上にスムーズなイコライジングができるようになっています。
注目度の高い本製品ですが、特徴や各機能はもちろん、使いこなしポイントや他製品との差別化などについてもレビューさせていただきたいと思います。
Curves AQ
【主な特徴】
Curves AQの主な特徴は以下になります。
- “Learn”をクリックするだけでCurves AQが自動で処理
- 5つのプロファイルから理想のサウンドを選択可能
- ブーストとカットを独立制御(全体/バンドごと)
- スタティックEQとダイナミックEQのバランス調整
- スマートティルトによる全体的なトーンバランス調整
- MixSenseでミックス全体でのEQ最適化
- ゼロレイテンシーバージョンを搭載
これまでのAI搭載EQとの違いとしては、プリセットや強度を選んで終わりではなく、そこからのバランス調整を幅広く詳細にサウンドメイクできるところがCurves AQの強みだといえます。
なお、「世界初の自律型EQ」とのことですが、自律型とは…?となったのは筆者だけではないはず。
この部分の説明をCurves AQのマニュアルから引用します。
Curves AQは、静的なノードやマニュアル調整に頼るのではなく、あなたの音楽に耳を傾け、何が必要かを学習し、あなたのトラックに合わせたスペクトラル・ターゲット・カーブを作成します。あらかじめ定義されたプリセットにオーディオを合わせる他の 「スマート 」EQとは異なり、AQは完全にパーソナライズされたプロセッシングカーブを作成し、テクノロジーとクリエイティブコントロールのギャップを埋めます。
簡単に理解すると、従来製品よりも素材に対するアプローチが柔軟かつ自然になっているということだと思います。
実際にいくつかのトラックでCurves AQを試した印象として、従来のAI搭載プラグインは素材のピーク成分を抑える方向性の製品が多かったですが、Curves AQではピーク成分を”特徴や旨み”として捉え、残す方向性も提示してくれるようになってるのでクリエイティブな音作りがしやすくなっていると感じました。
提示されたカーブの中には、自分ではしないであろうセッティングもあり、それを適用してみると案外良いなという場面もありました。
AI搭載プラグインの一番の強みである効率化や自動化という部分でもCurves AQは好印象でダイナミック処理とスタティック処理を同時に処理できることで、いろんな処理がこれ一つで済むというメリットがあります。
例えばボーカルのEQでは、セクション毎や歌唱法によってレゾナンス変わるため、セッティングを固定することが難しく、ダイナミックEQやレゾナンスカットプラグインをオートメーションで複雑に動作させる場面が少なくありません。
こういった複雑な処理をCurves AQである程度まとめることができるので、時短プラグインとして非常に有用ですし、かつ綿密な音作りまでできる製品です。
なお、同社のCurves EquatorとはGUIが似てますが、Equatorがレゾナンス特化のコンセプトに対して、AQはより幅広いイコライジングを得意としていますので、普通にEQを使いたい場面で活躍するのはAQになると思います。
Equatorと併用することで、より効率的に理想的なバランスを作ることも可能ですし、ボーカル処理に特化した同社のSilk Vocalにはダイナミクス機能も備わっているので、Silk Vocal、Curves Equator、Curves AQの3つを使えば、ボーカルミックスを素早く理想的に仕上げることも難しくありません。
多彩なコントロール
ラーニングさせてカーブを選ぶだけで全て処理できるCurves AQですが、多彩なコントロールで微調整や追い込みも直感的かつ自由に行えます。
筆者はWaves製品を長年使い続けていますが、Wavesの良いところのひとつとしてコントロール類の使いやすさがあると思っています。
AI系製品はコントロール類が直感的でなかったり、物足りなかったりすることがあるのですが、その点Curves AQは高いレベルでクリアしていると感じました。
実際の使用感としても、提示されたカーブをそのまま使うよりも微調整した方が良くなることがほとんどだったので、CurvesAQを使いこなすにはコントロール類の理解は必要だと思います。
とはいえ、ほとんどのコントロールは直感的に操作できるので難しくありません。
特に使用頻度が高くなるであろうコントロールを抜粋します。
ブースト&カット
青色(カット)と赤色(ブースト)がCurves AQの処理を示してますが、それを全体あるいは4バンドそれぞれで強度を調整できます。
例えば、提示されたカーブで中域と高域はちょうど良くなったが低域がブーストされすぎている場合、カーブ自体をカット方向に移動させると、全体の挙動もカーブに影響されて変わってしまいます。
これはスタティックEQとダイナミックEQが同居している本製品ならではの挙動なのですが、『低域バンドのブーストレベルを下げる』という動作で、低域だけの挙動を落ち着かさせることができます。
スタティック/ダイナミック スライダー
スタティックEQとダイナミックEQのバランス調整ですが、デフォルト状態ではグレーアウトしていて、ラーニングさせると最適なバランスに自動調整されます。
ダイナミックに偏りすぎると不安定なサウンドになってしまったり、逆にスタティックに偏りすぎると素材のバランス変化についていけないのでこのコントロールの微調整もポイントといえます。
ラーニング直後はスタティック寄りになる傾向があったので、ボーカルなどバランスが変わりやすい素材ではダイナミック方向に少し調整した方が良い結果になることが多かったです。
スマートティルト / オフセット
スペクトルターゲット(提示されたカーブ)全体の形状を直感的にできるコントロールです。
ざっくり低域寄りor高域寄りにしたいという場合にティルトを上下させてトーン調整を行えます。
ティルトの起点となる周波数も中央の丸を動かすことで調整でき、ティルトの種類も4種類あるので細かい調整も可能です。
また、ティルトの下にあるオフセットを左右に動かすことでもトーン調整が行え、提示されたカーブのピークを左右に動かしたい場合などに使用します。
MixSense
ミキシングにおいて重要な課題のひとつである帯域整理も、MixSenseでパワフルに対処できます。
基本的にはダッキング機能なのですが、Curves AQのMixSenseはサイドチェイン信号とラーニングしたスペクトルターゲットを”一体として計算”することで、ダッキング感の少ない自然な効果を得られます。
また、サイドチェインに複数のトラックを割り当てた場合に、メイン信号の影響度を分析して対処してくれます。
例えば、ハモリトラックは通常左右に定位させることが多いですが、メインボーカルとの帯域整理はもちろん、同じ左右に配置されているギターやシンセとも競合して抜けが悪くなる場合があります。
この際、メインボーカル、シンセ、ギタートラックをハモリトラックのサイドチェインに設定すると、Curves AQがそれぞれの信号を分析し、”影響が大きいトラックの帯域を優先してダッキング”します。
個人的にこれはかなり画期的な機能だと思います。
整理する帯域を都度分析し最適なカーブを作る手間が省けるのは非常に助かるので、この機能だけでもCurves AQを導入する価値はあると思います。
その他、アタック/リリース、Q解像度(Precision)、Mixレベル、オートゲイン、ステレオバランス(L/R & M/S)、トゥルーピークリミッターなどかゆいところに手が届く充実した機能性を備えています。
気になった点
個人的には文句のない仕上がりだと思います。
AI搭載プラグインは高価格帯になりがちですが、CurvesAQはコストパフォーマンスにも優れているので、導入のしやすさ、機能性、コスパを総合的に考えると素晴らしい製品だと思います。
強いて挙げるとすれば、素材によっては提案された5つの結果がどれも微妙だなと感じることもあり、”こうしたい”というイメージが既にある場合は普通にEQした方が早いこともありました。
とはいえ、慣れてくれば使い所の見極めもできるようになりますし、MixSense機能をはじめCurvesAQ独自のメリットを考えると全く問題ないと思います。
CPU負荷
普通のEQと比べると少し重いですが、複数プラグインの機能がひとつになっていることを考えると、気になるほどではないと思います。1つインサートでCPU使用5%ほどでした。
通常レイテンシーが1087sample / 22.6ms発生しますが、レイテンシーゼロのライブバージョンもあるので配信などにも有効です。
- OS : macOS Sonoma 14.4
- CPU : Mac M2 12コア
- メモリ : 64GB
- DAW : Cubase Pro 14
- バッファサイズ : 2048samples
- サンプリングレート : 48kHz
- ビット解像度 : 32bit float
- オーディオIF : Prism Sound Lyra1
まとめ
老舗のWavesの最新技術の集大成的な製品であり、音質と機能性と操作性が高レベルに仕上がっていると感じました。
AIプラグインの中でも介入できる調整幅が広いので、挙動と操作感に慣れれば自在なサウンドメイクが可能になると思います。
特にMixSense機能は、難しかった帯域整理が簡単になる画期的な機能なので是非お試しください。