ドイツのPlayfair Audioは2022年に設立された新興デベロッパーで、最初にリリースしたDynamic Gradingをユーザーフィードバックを基に再設計したものがDynamic Grading 2になります。
Dynamic Grading 2は、信号の音量分布を「ダイナミックヒストグラム」としてリアルタイムに視覚化できるため、視覚的な情報をもとに音の抑揚や密度を的確に把握し、調整することができる革新的なダイナミックツールです。
トランジェントシェイパーと同じ部類ではありますが、クリエイティブな流れと直感的な操作を維持するために斬新な検出方式やアプローチを採用しているとのことです。
今回はDynamic Grading 2を使用した感想や筆者なりの使い所をレビューしたいと思います。
Dynamic Grading 2
主な特徴
Dynamic Grading 2の主な特徴は以下になります。
- 入出力の音量分布をリアルタイムで視覚化し、編集指針を明確にするダイナミックヒストグラム
- 3つのレンジ(Punch / Body / Floor)を個別に管理することで従来のダイナミクス処理を超えた処理が可能。
- ドラッグ操作とグラフベースのインターフェースで、直感的かつ視覚的に音をデザイン。
- スペクトラム補正機能によって人間の聴覚特性に合わせた自然なダイナミクス制御が可能。
- ステレオから7.1.6chなどのサラウンドフォーマットまで対応。
- 低遅延モード(Live Mode)や自動遅延調整(Auto Latency)でスムーズな運用をサポート。
- セーフティリミッター内蔵で過剰な出力を防ぎ、機器や耳を保護。
近年、高性能なトランジェント処理が可能なプラグインもリリースされていますが、Dynamic Grading 2の差別化ポイントは、視覚情報を重視している点です。
ヒストグラム表示はその最たる例であり、アナライザとして見ることはあってもメインコントロールとしてヒストグラムを採用しているプラグインは他にないように思います。
また、処理の制御部分でも従来の製品と異なっていて、人間の聴覚特性に即した処理を行えるように「スペクトラム補正」機能を搭載しています。
人間の耳は、同じ音圧レベルでも中高域(2~5kHz)を最も敏感に捉え、低域や超高域には鈍感になっています。
従来製品ではこの特性を無視したレベル検出を行なっていることから、ベースやキックなどの低域信号が過剰に反応したり、スネアやボーカルなど聴感上重要な帯域が不自然に潰れたりなどのデメリットがあります。
それに対しDynamic Grading 2では、スペクトラム補正機能によって人間の聴覚に近いレベル検出を行なっているため、より自然で音楽的な処理ができ、さらに補正レベルを調整することも可能です。
使用感や音質について
ヒストグラムによる視覚的に音の抑揚な密度を把握するというアプローチは、新鮮でありつつも違和感も少なく直感的に操作できました。
ヒストグラムは左右に表示されていて左がソース(処理前)、右がターゲット(処理後)を表しているので音だけでなく視覚的な比較もしやすいです。
Punch / Body / Floorの3つのレンジも分かりやすくて使いやすいです。
いわゆる”コンプ感”はPunchとBodyの圧縮を増やすことで得られるので逆の操作をすればオープンで抑揚のついたサウンドになります。余韻はFloorで調整できます。
ダイナミクスをアタック/リリースだけでなく細かく分けて制御するプラグインは他にもありますが、Dynamic Grading 2はその境目が自然になっているように感じ、スペクトラム補正機能の恩恵が大きいように思います。
使用用途としては、ドラムバスやステレオミックスの補正から、大胆なサウンドデザインまで幅広く使うことができます。
例えば、ルームアンビエンスが多く含まれているドラムをドライな空間にすることも簡単にできますし、音の立ち上がりはできるだけ変えずにボディを圧縮してパンチ感を得る、といったことができます。
これだけだと普通のトランジェントシェイパーと変わらないように思うのですが、Dynamic Grading 2はスペクトラム補正があるため、処理の結果がより自然になってるように思います。
個人的な感触として、普通のトランジェントシェイパーをドラムバスやステレオミックスに掛けると、ある部分では最適な処理がされていても他の部分で意図しない掛かり方になってしまい、結局外してしまうということがよくあるのですが、Dynamic Grading 2では意図しない掛かり方になることが少ないように感じました。
自然な掛かりと表現すると補正用途がメインになると思われるかもしれませんが、コントロールの調整幅が大きいので、意図的にバランスを崩すこともできます。
ボーカルに使用してFloorだけ持ち上げると、コンプ感なくブレスを強調できるのでウィスパーボイスやASMRの編集に役立ちますし、フィルタープラグインと組み合わせると、ドラムをLo-fiでドライなサウンドに変えたりと、想像力次第ではいろんな用途が考えられます。
その他の実用例としては、ボーカルMIX時にインストの音圧が過剰に高いデータを扱わないといけない場合、インストのトランジェントが埋まってしまい奥まった音になってしまうことがあるのですが、Dynamic Grading 2だとある程度トランジェントを復活させることができます。
これもやりすぎるとバランスが崩れるので微調整の範囲にはなりますが、今までコンプの多段掛けやなどを組み合わせて対処していたことをDynamic Grading 2に置き換える、もしくはダイナミクス制御はDynamic Grading 2に任せてコンプなどは質感調整用途に集中させる、といった役割分担ができるようになります。
気になった点
製品自体の気になる部分というよりも、革新的な技術と新しいアプローチの製品なので、使い方のセオリーを自分で見つけていかないといけない、という点は初心者の方には扱いづらいかもしれません。
CPU負荷
1つインサートでCPU使用2〜3%で軽い部類です。DAW付属コンプなどシンプルなものと比較すると多少重いですが、気にするほどでは全くないと思います。
- OS : macOS Sonoma 14.4
- CPU : Mac M2 12コア
- メモリ : 64GB
- DAW : Cubase Pro 14
- バッファサイズ : 2048samples
- サンプリングレート : 48kHz
- ビット解像度 : 32bit float
- オーディオIF : Prism Sound Lyra1
まとめ
斬新なアプローチによる操作性や技術的なあれこれはありますが、シンプルにトランジェントシェイパーとしての性能が高く汎用性もあるので、音楽的なダイナミクス制御を求めてる人には導入する価値があると思います。
自然な処理から創造的なサウンドデザインまで、幅広い可能性を感じる革新性のある製品だと思います。