Fabfilterが2009年に初代Pro-Qをリリースして以来、その素晴らしい音質と操作性で世界中の多くのエンジニアやプロデューサーに信頼され業界の主力EQとなったPro-Qシリーズですが、満を持して最新バージョンの『Pro-Q4』がリリースされました。
前作Pro-Q3のリリースが2019年なので実に5年ぶりのメジャーアップデートです。
この5年でAI処理やインテリジェント処理などプラグイン技術が様変わりしたこともあって、バージョンアップを心待ちにしていたユーザーも多いと思いますし、筆者もその内の一人です。
今回はPro-Q4の新機能紹介を中心に、筆者の個人的な目線も含めてレビューさせていただきます。
Pro-Q 4
Pro-Q4 新機能
Pro-Q4には多くの新機能が盛り込まれているのですが、特に注目したい機能が5つあります。
- 自由にカーブを描けるEQスケッチ機能
ディスプレイ上でマウスを押したまま左から右に描き始めると、マウスを再び離すまでの動きを解釈してカーブが追加されます。
目的のカーブが作れるまで何度もクリックすることから解放され、一筆書きの感覚でカーブを作れるのが新鮮です。
- 新しいインスタンスリストでトラックを一括管理
前バージョンのインスタンスリストはミニマップのような表示で全体像を把握するのみでしたが、Pro-Q4ではリスト画面が新しく表示されるようになって視認性が向上しているだけでなく、インスタンスリスト画面内で各トラックのカーブ作成が自由に行えるようになっています。
これにより、帯域干渉のチェックから問題あるトラックへの対処までが大幅に効率化できるようになりました。
- スペクトラルダイナミクスによる正確かつ効率的なレゾナンス処理
今回のバージョンアップで最も注目されているスペクトラルダイナミクスですが、いわゆるレゾナンス処理にあたるもので、通常このような処理は別途プラグインを用意する必要がありますが、Pro-Q4ではダイナミックEQ処理の延長で簡単に行えるようになりました。
- キャラクターモードでアナログ感を付与
新たに2つの質感を切り替えできるようになりました。
「Subtle」では微細なサチュレーションが加わり、「Warm」ではチューブタイプのサチュレーションが加わります。
切り替えたモードはデフォルトセッティングとして保存できるので、例えば全トラックにPro-Q4をインサートしてクラシックコンソール風に使用することもできます。
- ダイナミックEQの改良でアタックリリースの調整可能
アタックリリースのノブが加わったことで、柔軟に音作りができるようになりました。また、トリガーボタンが新規追加され、サイドチェイン帯域を指定できるようにもなっています。
ダイナミックモード使用時の歪みやノイズも前バージョンから改善されています。
その他、位相問題を解決するオールパスフィルター、スロープ設定のリニア化、ゼロレイテンシーおよびナチュラルフェイズモードの挙動改善などなど、機能面、音質、操作性の全てで数々の改良が行われています。
個人的に嬉しい改善点は、ディスプレイの端の方では自動的にフィルタータイプに切り替わり、その少し手前ではシェルビングタイプに切り替わる点です。
ポイントを作ってカーブを切り替えという単純な動作も何回も行うと煩わしくなるもので、こういった設計はユーザビリティを大切にしているFabfilterならではといえます。
また、カーブのコピーペーストが実装されたことも個人的に嬉しい改善です。
似たようなカーブを複数手動で作るのは大変なので、コピペでかなり効率化できます。
UIデザインも刷新されていて、よりモダンな印象になっています。ユーザビリティはシリーズ過去最高といってよいと思います。
音質や競合との比較について
筆者がPro-Q3に感じていた不満として、ダイナミックEQでカーブを複数作るとアタック感が弱くなって音が濁るような印象があり、どのような改善があるか期待していました。
これに対しPro-Q4はダイナミックEQの性能向上とスペクトラムダイナミック機能で応えてくれたわけですが、スペクトラルダイナミクスは予想を超えてきた結果でした。
通常のダイナミックEQは便利ですが仕組み上の限界もあり、例えば細かいピークを適切にカットにするにはレゾナンス処理に特化した製品の方が有利です。
レゾナンスフィルター製品は、部分的にはダイナミックEQの上位互換といえるので、結局EQではスタティックな処理だけしておけばいいかな、と思うこともありました。
そうなるとプラグイン構成も複雑になってくるのですが、そういった煩わしさをスペクトラルダイナミクスは一気に解決してくれる可能性があります。
音質と動作についても、アタックリリース調整が加わったことで前作で気になっていた濁りも解消されているように感じました。
ただ、他のレゾナンスフィルターから完全に置き換えれるかというとそうでもなく、Pro-Q4なりの解釈で動作しているようで使い分けは必要に思います。
また、個人的に意外だったのはキャラクター切り替えが追加されたことです。
Pro-Qシリーズはクリーンでノイズが少ないことが大きな特徴だったことから歪みとノイズを追加する機能とは無縁と思っていただけに、これも良い意味で裏切られました。
Subtleモードはかなり微細ですがザラつきが加わる感じで、Warmモードはしっかりとチューブの感じを付与できますがオールドすぎず、Pro-Qの基本カラーは崩していません。
近年、多機能高性能なPro-Qキラーと呼ばれる製品も増えてきていますが、スペクトラルダイナミクスとサチュレーションは競合製品と差別化できる部分で、各EQ製品の棲み分けをよりはっきりと感じました。
インスタンスリストが大幅に使いやすくなったこともあって、Pro-Q4はメインEQとして申し分ない機能性とユーザビリティがあり、『万人から愛されるFabfilter』というこれまでの評価をより一層盤石にする製品だと思います。
CPU負荷
ゼロレイテンシーモードでスタティック処理だけだと非常に軽いです。Pro-Q3よりも若干軽くなっています。
ただしリニアフェイズモードやスペクトラルダイナミクス使用時はCPU負荷が上がりレイテンシーも発生するのでライブ用途での使用は難しいです。(共に解像度Low時で64ms、Highで192msのレイテンシー)
- OS : macOS Sonoma 14.1
- CPU : Mac M2 12コア
- メモリ : 64GB
- DAW : Cubase Pro 14
- バッファサイズ : 2048samples
- サンプリングレート : 48kHz
- ビット解像度 : 32bit float
- オーディオIF : Prism Sound Lyra1
まとめ
5年ぶりのメジャーアップデートは期待を超える内容だったことも嬉しいですが、群雄割拠のプラグイン市場において、Pro-Q4の位置付けをより明確したいというコンセプトも強く感じました。
ユーザーに無駄に細かい操作はさせないという意思が伝わる造りになっているので、初心者から上級者まで万人におすすめできる製品です。
手持ちのEQで全然困ってないと感じている方も、次世代EQ筆頭のPro-Q4をぜひ体感してみてください。
なお、2024年10月13日以降にPro-Q3を購入したユーザーには、FabFilterアカウントにPro-Q4が自動的に送信されているとのことです。