iZotope Ozoneは、昨年のバージョン10から1年という短いスパンでバージョン11になりました。
”楽曲に生命を与える究極のマスタリングツール”と銘打たれたOzone 11では、新モジュールの『Clarity』が登場した他、楽器毎のコントロールが可能な『Stem Focus』、Master Assistantが最適なボーカルバランスを見つけるアシスト機能など、充実したアップデート内容となっています。
今回は新機能紹介に加え、動画解説では筆者の楽曲を自分でマスタリングしたものと、Ozone 11のMaster Assistantがマスタリングしたものとの比較なども紹介しています。
Ozone 11
パワーアップしたMaster Assistant
前バージョンにて刷新されたアシスタントビューが、より使いやすくなっています。
Tonal BalanceでEQ量調整、Loudnessで音圧調整に加え、新機能のVocal Balance、その他機能のExtraと、主要な機能がアシスタントビューで操作できます。
AIによる自動マスタリングもより高精度になってる印象で、提示された音が素晴らしく、詳細画面を触らずにアシスタントビューだけで完結することも全然あるなと感じました。
細かいところで個人的に気になっていたのが音圧基準を決める項目で、前バージョンでは「Optimise for」という項目で選択肢が”DJ Player” と ”Streaming” でした。
”DJ Player” はノーマライズ環境を考慮しない設定なのですが、ちょっと単語から意味が掴みにくいなぁと感じていました。
それが、Ozone 11では”Full Scale”に変わっていて項目名も「Output Level」になって、誰でも分かりやすい名称になっています。
こういった細かい部分までしっかり考慮してアップデートされているのは嬉しいですね。
Clarityモジュール(Advanced のみ)
Ozone 11ではモジュールに新しく『Clarity』が追加されました。
操作可能な300〜20kHzを数百バンドに分かれた自動追尾型EQとなっており、レゾナンスカットやエンハンスが素早く高品質に可能な強力なツールです。
前バージョンで追加された『Stabilizer』と一見似ているようにも見えるのですが、音の変わり方は全く別の方向性でして、『Stabilizer』は全体的な帯域バランスを整えるものでしたが、『Clarity』はレゾナンス調整やキャラクタの付与に特化したものになっています。
中域のモヤモヤした部分を取って高域を自然に持ち上げクリアにすることに特化したエフェクト、と認識いただけると分かりやすいかと思います。
EQでカット/ブーストするよりも必要な成分だけに掛かるので、高域ブーストのチリチリが少なかったり、中域カットによるペラペラが少なかったりと掛かりは自然です。
マスタリングだけじゃなく、ミキシングで各バストラックに単体でインサートしても良い結果になると思います。
Assistive Vocal Balance
Master Assistant使用時にボーカルを検出し、その音量を何百もの楽曲分析から得た最適値にAIが調整する機能です。
ボーカルとインストを馴染ませにくい、”歌ってみた”などボーカルミックス音源においても効果を期待できるように思います。
中身はこれまでもあったMaster Rebalanceモジュールなので、もちろん後から再調整することもできます。
ただ、ボーカルの検出が意外と難しく、楽曲によってはサビなどいろんな楽器が鳴ってる箇所では上手くボーカルを検出できませんでした。
ラーニングさせる時はサビを使った方が良い結果になりやすいのでちょっとここは改良点がありそうです。
Transient / Sustain(Standard 以上)
Ozone11では、MaximizerやDynamicsなど一部モジュールを除き、Transient / Sustainを個別調整できるようになりました。
前述のClarityはもちろん、EQやExiter、Low End Focusなどにも適用でき、これにより複雑な処理も可能になっています。
例えばキックのサスティンだけを取り除きたい場合、ミキシングだとキックにトランジェントシェイパーを使うなど選択肢はいくつもありますが、マスタリングだと他トラックへの影響が大きいため難しくなります。
その場合も、例えばLow End Focusをサスティン操作に切り替えゲインを下げれば、キックのサスティンだけをスムーズに取り除くことができます。
このような処理はこれまでのプラグインでは難しかったので、AIを使わなかったとしても、マスタリングツールとして高性能といえます。
MaximizerのUpward Compress(Standard 以上)
前バージョンでSoft Clip機能が追加されて使いやすくなったMaximizerに、今回更にUpward Compressが追加されました。
アップワードコンプはダイナミクスの激しい2mixで自然な聴き心地を作る際に重宝するので、細かい部分ではありますが嬉しいポイントです。
音質は非常にクリアで透明性の高くOzone印といったところですが、可変幅は大きくアタックリリース設定もないので、強く掛けるとダイナミクスが崩壊しがちです。
軽めに掛けて静かなパートを聴こえやすくしたり、楽曲の空気感を持ち上げて密度を高めたりといった補助的な使い方が良いかと思いました。
CPU負荷
CPU負荷は中程度です。統合ツールのためレイテンシーは高めです。(7952sample / 165ms)
1つ挿したときにCPU使用率約10%でした。
- OS : macOS Ventura 13.4
- CPU : 3.6 GHz 8コアIntel Core i9
- メモリ : 40 GB 2667 MHz DDR4
- DAW : Cubase Pro 12
- バッファサイズ : 2048samples
- サンプリングレート : 48kHz
- ビット解像度 : 32bit float
- オーディオIF : Prism Sound Lyra1
まとめ
Ozone10でも充分なクオリティでしたが、Ozone 11はそれを軽く超えてきた印象です。
AI性能もかなり向上していると思われ、ほんとに微調整程度で完パケできてしまうクオリティに感じました。
初心者の方は完全にAIおまかせでプロクオリティのマスタリングができますし、自分で進めていく場合でもAIが強力なサポートで理想までの方向性を提示してくれる、”究極のマスタリングツール”の名にふさわしい製品になっていると思います。
おなじみのエディションについては、新モジュールのClarityが単体でも使い勝手が良いので、Advancedエディションが個人的におすすめです。
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