カリフォルニアの新興デベロッパーMUSIK HACKのプラグイン第一弾である「Master Plan」は、ラウドネスとクリアなサウンドを両立するマスタリングツールです。
マスタリングの全てがこれ1つで済む、「オールインワン」がコンセプトで、トーンバランス / 音像 / ラウドネス といった要素を徹底的に分析し、シンプルなインターフェースに落とし込んでいます。
グラミー賞を受賞したエンジニアが開発に携わっていて、通常なら複雑なステップで作り上げるサウンドを簡単な操作で実現できるとのことです。
日々進化が目まぐるしく、プラグインの中でも群雄割拠なリミッター/マキシマイザーですが、新参者の「Master Plan」に優位性はあるのか、詳しくみていきたいと思います。
Master Plan
◆主な特徴 / 使い方
Master Planの主な特徴は以下の通り。
- スピーディーなワークフローを念頭に置いた、パワフルなマスタリング機能を搭載
- 独自のアルゴリズムによる、高めの音圧も実現可能なラウドネス調整
- マスタリング段における温かみを実現するアナログ&テープサチュレーション機能
- 「空間」を自然に生み出す、モノラル互換にも対応したステレオフィールド調整
AIアシストなど自動処理系は搭載されていないですが、トーンコントロール、サチュレーション、イメージャーなど、マスタリングで必要とされる調整は一通り行えるようになっています。
その中でも特筆すべきは核となる「Loud」コントロールで、リミッターとクリッパーがダイナミックに反応するアルゴリズムで、音の品質を損なわずに音量を最大限に引き上げることが可能です。
自然で迫力ある音圧を作るためにリミッターやクリッパーを組み合わせるのは、経験値のあるエンジニアであれば常套手段ですが、それをワンノブで出来るということですね。
実際に触ってみると、従来のリミッター/マキシマイザーと感覚が違っていて適度にソフトクリップされて音圧が上がりやすくなっています。
サウンドはパワフルでありつつも歪みが少ないので、音圧が高いときに陥りがちな閉塞感を感じにくいです。
現代的マスタリングに欠かせないオープンなサウンドが欲しいときには即戦力になりますね。
この機能性だけでもMaster Planを導入する理由としては十分なのですが、もう一つ重要な機能が「Low, Mid, High」のトーンコントロールです。
3バンドEQ自体は使いやすいものが多くありますが、Master Planもそういった製品に引けを取らない使いやすさです。
基本的にバンド固定のシンプルな構成ですが、解析ツールでカーブを確認すると、ブーストとカットで異なった動作になっていることが分かりました。
例えばHighをカット方向に回すと、4kHz辺りからの緩やかなカットになりますが、ブースト方向に回すと8kHzを起点に『シェルビングカットとブースト』が同時に掛かります。
一つの動作で2つのカーブを動かしているのですが、これが音楽的に感じて非常に使いやすいです。
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MidにはH/M/Lの切り替えがあり、H:10kHz M:4kHz L:800Hz 辺りが起点になっていて、こちらもブースト/カットで動作が異なります。
Midという名称で10kHzが起点になっているというツッコミはあるかもしれませんが、操作してみるとアタック感のちょうど良い部分を調整できるので助かりますし、Highのシェルビングカーブとは違ったニュアンスになるので、Highの切り替えではなく敢えてMidに配置した意味も分かります。
つまり、このトーンコントロールは単にEQを搭載したのではなく、マスタリングで必要とされる帯域や問題となりやすい帯域を綿密に分析していて、まるで一流エンジニアが操作しているような複雑な処理をシンプルな操作性で実現している、ということです。
また、現代的マスタリングには欠かせないステレオコントロールも「Wide」で簡単に行えます。
位相を保ちながらステレオを広げることができるとのことで、イメージャーにありがちな定位が曖昧になっていく感じも少なく、厚みのある広がりを得れます。
充実のサブコントロール
Master Planがオールインワンを実現する上で欠かせないのが、サチュレーションやレゾナンス処理などのサブコントロール類です。
アナログサチュレーションの「Thick」とテープサチュレーションの「Tape」、低域レゾナンスカットの「Clean」と高域レゾナンスカットの「Calm」などあると便利な機能を押さえています。
「Smooth」では微妙なグルー感を得れますし、3バンドマルチコンプの「Multi」では、膨らみすぎた帯域を抑えることができるので、トーンコントロールだけでは調整しきれない部分をカバーします。
最近のリミッターには標準搭載されつつあるUnityボタンもしっかり付いてるので、ラウドネスに惑わされずに音作りできます。
アナライザーもコンパクトにまとまっていて、リダクション量は見えないもののLUFSはIntegratedとShort Teamがピークメーター下でしっかり見えるので問題ありません。
各視聴環境を想定したフィルターも搭載していて、MonoやPhoneのチェックができる他、珍しいところでテンモニ(Yamaha NS-10M)のエミュレーションがあります。
また、セッティング画面ではGUIサイズやカラーリングの他、オーバーサンプル設定が可能です。
Master Planは内部処理の都合で最低88.2kHzのサンプルレートが必要とのことで、プロジェクトが88.2kHz以下の場合はオーバーサンプルをOFFにすることはできませんが、そこまで負荷も重たくないのでOFFが必要な場面は少ないと思います。
気になった点
サウンド的には大満足の本製品ですが、欲を言えばいくつか追加してほしいと思える部分がありました。
機能的にはグルー効果を付与する「Smooth」の効果が小さいので、もう少し調整幅のあるコンプセクションがほしくなりました。
また、使い勝手としてはA/B比較があれば便利だと思います。
特にマスタリングでは細かい調整の比較をしたいので、今後のアップデートに期待しています。
CPU負荷
CPU負荷は中程度です。デフォルトのオーバーサンプル4倍で1つ挿したときにCPU使用率15%ほど、iZotope Ozone11と同程度でした。
(レイテンシー 4706sample / 98ms)
- OS : macOS Sonoma 14.4
- CPU : Mac M2 12コア
- メモリ : 64GB
- DAW : Cubase Pro 14
- バッファサイズ : 2048samples
- サンプリングレート : 48kHz
- ビット解像度 : 32bit float
- オーディオIF : Prism Sound Lyra1
まとめ
AIアシストは使わずに自分でコントロールしていくスタイルが個人的に好きなので、Master Planのコンセプトにも合っていて非常に好感触でした。
一つのコントロールで複数のパラメータが動く感じはシグネイチャープラグインを使っている感覚で、有名エンジニア監修で最適にチューニングされたEQとサチュレーション付きのマキシマイザー、と考えるとイメージしやすいと思います。
解説動画ではマスタリングツールの大定番、Ozone11との比較検証も行っているので、より詳しくMaster Planの特徴がわかるかと思います。
なお、日本代理店であるSONIC WIREさんの製品ページでは開発者Sam Fischmann氏のインタビューがあり、本製品のコンセプトや使い方のコツ、ラウドネスに対する持論などが読めます。
トゥルーピークの考え方などは参考になると思いますので、気になった方はチェックしてみてください。