オーストリアを拠点とするsonibleは、AI搭載プラグインを中心に開発しているデベロッパーで、smart:EQ や smart:reverb など「smart:」シリーズを中心に展開しています。
smart:compシリーズは2019年の初代リリース以降着実な進化を重ね、約3年半ぶりのメジャーアップデートとなる smart:comp 3 がリリースされました。
本稿ではsmart:comp 3の新機能を中心に、使用感や前バージョンとの違いについてレビューさせていただきます。
smart:comp 3
主な特徴
smart:comp 3の主な特徴は以下になります。
- コンプレッション・マトリクス:2Dマップ上でキャラクターを自由に切り替えられるUI
- コンプレッション・スコープ:解析結果に基づく適正なコンプレッション範囲を可視化
- グループモード:最大7つのインスタンスを連携し、主要パラメータを一括操作
- ゼロレイテンシーモード:ミニマムフェイズ処理による約0.2msの低遅延動作
- インプットライディング:コンプレッション前の入力レベル変動を自動で安定化
- 4つのスタイル選択:Clean / Smooth / Aggressive / Custom
従来のコンプレッサーは「アタックを何msにするか」「レシオをいくつにするか」などパラメータの数値を決めることで音を作っていく設計です。
つまり、「イメージしてる音はアタック何msでレシオいくつ」という情報が結びついていないと数値を決めることができないため、この設計自体がコンプレッサーの音作りの難易度を高めていました。
これに対しsmart:comp3 では、「この素材をどういう質感にしたいか」という仕上がりイメージをそのまま音作りの設計に落とし込んでいます。
それが新搭載のコンプレッション・マトリクスです。
Snappy / Punchy / Dense / Dynamic の4方向を持つ2Dマップ上で圧縮のキャラクターを自在に動かせるUIで、「もう少しパンチがほしい」「アタック感を残したい」といった感覚的な判断をそのまま操作に落とし込めるため、非常に直感的な可能です。
あわせて搭載されたコンプレッション・スコープは、素材に対して破綻しないコンプレッションの範囲を緑色のエリアで示してくれるので、掛けすぎを防ぐ指針になります。
AI解析について、前バージョンのsmart:comp2 では、「提案を受け入れるか手動に切り替えるか」の二択になりがちでしたが、マトリクス及びスコープの導入により、AI提案をベースに考える自由度がかなり広がっています。
スペクトラルコンプレッションとグループモード
前バージョンから搭載されているスペクトラルコンプレッションは、2,000バンド以上の細かい帯域で解析し、リアルタイムでリダクションする機能です。
例えばドラムバスに通常のコンプを掛けると、キックの低域に引っ張られてシンバルやスネアまで不自然に潰れることがありますが、スペクトラルコンプレッションを使えば、キックの低域をしっかり処理しつつスネアのアタック感は維持する、といった使い分けが可能です。
サイドチェインダッキングと併用(スペクトラルダッキング)できるので、キックをトリガーにしてベースをダッキングさせる際、ベースの中高域を残すことで、不自然なポンピングを抑えるなどが可能です。
また、グループモードは最大7つのインスタンスをリンクさせて1つのウィンドウから一括調整できる機能です。
グルーピングができるプラグインも珍しくなくなってきていますが、smart:comp3 の場合、マトリクスとの相乗効果で使いやすさが一段と向上しています。
ひとつのプラグイン画面上で、グループ内トラックの設定状況を一覧で見えるほか、パラメータの一括調整や一括学習まで可能なので、とりあえず必要なトラックにインサートしてグループ化して、再生しながらラーニングボタンを押すと十数秒でコンプ設定の土台が完了します。
単なる設定のコピーではなく、トラック毎に最適化されたコンプ設定を複数同時に行えるのはかなり革新的な機能だと思います。
使用感と音質について
実際に使用して最も印象的だったのは、マトリクスの視認性の良さと操作感です。
グループモードと併用するとトラック全体のダイナミクスを一括で操作できるので、ミックスのダイナミクスの全体感を掴んで調整するというプロの職人芸が誰でもできるようになっている設計は素晴らしいと思います。
音質面では、深めにゲインリダクションしてもクリーンで自然な仕上がりになるのは従来通りですが、サチュレーションの追加によって太く前に出る音も作れるようになり、前作までの弱点をうまく補えています。
レイテンシーも大幅に改善されています。
smart:comp2 ではリニアフェイズ処理のみで約43.9msでしたが、smart:comp3 ではミニマムフェイズモードで約0.2msまで低減されています。
気になった点
前バージョンにあったアップワードコンプレッションが廃止されたのは個人的に残念なポイントです。
また、ニーの設定がSoft / Medium / Hardの3段階プリセットになり、連続値での調整ができなくなっています。
マトリクスによる直感的な操作性を優先した結果のトレードオフだと思いますが、パラメータを細かく追い込みたい方は要確認だと思います。
CPU負荷
ミニマムフェイズモードで1インサートあたり3%程度と、スペクトラル処理のプラグインとしては優秀な部類です。グループモードで複数インスタンスを連携しても極端な負荷増加は感じませんでした。
レイテンシーはミニマムフェイズモードで約0.2ms、リニアフェイズモードで約41.5msです。
- OS : macOS Sequoia 15s.3
- CPU : Mac M2 12コア
- メモリ : 64GB
- DAW : Cubase Pro 14
- バッファサイズ : 2048samples
- サンプリングレート : 48kHz
- ビット解像度 : 32bit float
- オーディオIF : Prism Sound Lyra1
まとめ
前作まではAIはあくまで補助的な提案に留まっていたのがsmart:comp3 になってAIの提案がかなり実用的になっている印象です。
解析させた設定をそのまま採用するでも十分ですが、スコープの実装で「AIが考えた範囲」が見えるようになったことも逆にクリエイティブを刺激する要因になると思います。
コンプに苦手意識のある方にとっては扱いやすく、経験豊富なエンジニアにとっては追い込みしやすいという、絶妙なバランスに仕上がっている製品だと思います。