アイスランドのSOUNDTHEORY社が開発した「Gullfoss」は、2018年のリリース以降現在まで、多くのエンジニアから支持を得ているインテリジェントEQです。
人間の聴覚モデルを基に、1秒間に300回以上の解析と補正により従来のEQより滑らかな処理が可能となった本製品は、その後のインテリジェント系やAI系プラグインの流行の先駆けや始祖的な存在になりました。
今回はリリースから7年経っているのにも関わらず、今なおインテリジェントEQの代表格として、多くのユーザから愛されているGullfossの魅力に迫りたいと思います。
Gullfoss
主な機能・コンセプト
Gullfossという名前はアイスランドの有名な滝「黄金の滝」に由来していて、『音の流れを自然に整える』というコンセプトが込められています。
独自の聴覚モデルに基づいた処理によって、一般的なダイナミックEQとは異なり、人間の耳に近いアルゴリズムでリアルタイム解析し、マスキングを検出して自動補正します。
主要な5つのパラメータ:
- Recover: 埋もれている成分を回復
- Tame: 過剰な成分を抑制
- Bias: RecoverとTameのどちらを優先するかのバランス調整
- Brighten: 全体的な高域の明瞭度調整
- Boost: 低域と高域の強調
また、画面下部のスライダーて、帯域幅を制限できます。
パラメータが少なく操作性はシンプルながらも洗練されているので、これより少なくても自由度がないし、多くても複雑になっ制御しきれない絶妙なバランスになっていると思います。
また、Gullfossにはプリセットが用意されていません。
一見不親切のように思われるかもしれませんが、私はここにもSOUNDTHEORY社のこだわりがあると感じます。
実際、内部では複雑な処理が行われていることから、楽器毎にお決まりのセッティングがあるわけではなく、同じパラメータにしても素材によっては結果は全く異なります。
そういった性質のプラグインなので、プリセットがないことも必然であると感じます。
使用感と音質
Gullfossはレゾナンスサプレッサーとは違い全体的なバランス調整向きの特性です。
極端なセッティングもできなくはないですが、バランスが破綻しやすくなるので最初は音作りしていく場面が多くなると思います。
音質についても非常に素晴らしく、後続製品と比較しても古さを感じさせないGullfossのスムーズさは特筆すべき点だと思います。
以下に代表的な使用例を挙げてみます。
ボーカルトラックで使用:
オケに埋もれがちなボーカルを前に出したい場合、
Recoverで倍音を整理しTameで不要な膨らみを抑えます。
これで存在感と抜けの良さを両立できます。
ベーストラックで使用:
Tameを上げるとブーミーな低域が抑え、BrightenとBoostで
重心を調整してキックとの分離を良くできます。
ドラムバスで使用:
Recoverを上げるとキックとスネアの分離が良くなり、
シンバルのきらびやかさが増します。
ただし注意点としては、やりすぎるとコシのないシャリシャリな音になったり、逆にくすんだ音になったりするので、意図的でない限りは控えめに使う方がよいでしょう。
また、全トラックにインサートするみたいな使い方よりも、メインボーカル、キックスネアなどミックスの中心になるようなソースに使うなど、ある程度使い所は絞った方が良い結果になりやすいです。
また、マスタリング処理に特化した「Gullfoss Master」も同梱されているので、マスタートラックにはこちらがおすすめです。
Gullfoss Masterは聴覚知覚モデルが拡張・改良されており、より高いサウンドクオリティと透明性を実現しています。
CPU負荷
通常のGullfossはインテリジェント処理にも関わらずCPU負荷は抑えめで当環境では3%程度でした。
Gullfoss Masterは10%ほどの負荷になったので通常版よりかなり重いといえます。
- OS : macOS Sonoma 15.6
- CPU : Mac M2 12コア
- メモリ : 64GB
- DAW : Cubase Pro 14
- バッファサイズ : 2048samples
- サンプリングレート : 48kHz
- ビット解像度 : 32bit float
- オーディオIF : Prism Sound Lyra1
まとめ
「帯域バランス調整時の迷いを劇的に短縮できる革新的なプラグイン」としてリリースされて7年が経った現在でも、そのシンプルな操作性とクオリティの高さで愛用者が多いGullfossなので、今からでも持っておいて損のない製品のひとつといえます。