アナログ名機のモデリングプラグインの業界標準ともいえるUADから、ボーカル用統合プラグインの『Topline Vocal Suite』がリリースされました。
Topline Vocal Suiteは、ヒップホップからポップス、R&Bまで、あらゆるジャンルに最適にチューニングされたプリセットが数多く収録されていて、目的のサウンドまで最短で辿り着けるのが最大の特徴です。
構成されているエフェクトもUAD印のアナログな質感から、ナチュラルでモダンな質感まで多彩な表現がひとつのプラグインにまとまっています。
ボーカルミックスの即戦力となりえる本製品ですが、統合プラグインなので初心者向けかな?という疑問もあると思いますので、どういった使い道があるのか、使用してみた感触を率直にレビューさせていただきたいと思います。
Topline Vocal Suite
主な特徴は以下の通り。
- 最先端のピッチ補正でボーカルを完璧にチューニング
- ビンテージアナログ機器にインスパイアされたUAチャンネルストリップ、コンプレッサー、EQ
- クラシックなリバーブ、テープディレイ、モジュレーションを搭載
- 150以上のハイクオリティなプリセットで、あらゆるジャンルで完成系と呼べるボーカルサウンドを実現
- Topline Key Finderで曲のキーとスケールを素早く特定
- ローレイテンシーモードでリアルタイムにインスピレーションを
即戦力プリセットとUAD印のモダン・アナログサウンド
Topline Vocal Suiteで個人的に一番注目したいのがプリセットの完成度と、その完成度の高さの要因となっているモダン・アナログサウンドです。
モダンとアナログって反対の意味合いかもしれませんが、基本的にはローノイズで音の粒立ちがはっきり残るあるモダンサウンドではありつつも、プリアンプとコンプセクションの歪みは、しっかりとアナログライクで”採用したくなる音” になっています。
プリセットは著名アーティストやプロデューサーがデザインしたものも多く含まれていて、サーチブラウザもジャンル、(音の)タイプ、アーティスト別に絞り込みもしやすくなっています。
プラグインプリセットあるあるで、特に統合プラグインにはよく見られるのがプリセットに力を入れすぎていて仰々しい音しか入ってない、ということがあります。
その点、Topline Vocal Suiteはかなり現実的で、例えばプリアンプだけONで後はバイパスとか、EQで1ポイントだけ調整して後はバイパス、みたいな非常に細かい設定まで収録されています。
とことんプリセットファーストで使ってほしいという製品コンセプトが感じられますし、現場で実際プラグインがどうやって使われているのかをしっかり把握されているのが好印象です。
もちろん、エフェクティブなサウンドも入ってますので、プリセットを選ぶことで製品を理解できていく感じになっています。
質感自由自在なチャンネルストリップ
Topline Vocal Suiteの構造は、
- チューナー&シフト
- チャンネルストリップ
- モジュレーション&空間
の3つのセクションから成っていて、各セクションには独立したエフェクトが計8つあります。
チャンネルストリップはアナログ、ダイナミクス、簡易EQ、という構成なんですが、スッキリとしたUIからは想像できないほど多彩な質感を作り込めるようになっています。
例えばアナログモジュールではチューブ/ソリッドステート切替、5つのアナログトーン、サチュレーションと、組み合わせのパターンだけでも豊富なので、これだけで一つのプラグインとして成立するクオリティです。
また、それぞれ微妙な違いではなくキャラがはっきりしているので判断に迷うことも少ないはずです。
解析するとEQカーブの違いもがっつり変わるので、後述するEQの簡易さをフォローする役割もあると感じました。
コンプは5つのスタイルから選択できます。
4つはFETスタイル、1つはオプトスタイルということでこちらもキャラがはっきりしているので求めている質感に一番近いものを選びやすいです。
ダイナミクスと歪みのスタイルが柔軟に選べるのに対して、EQはある程度の制限が意図的に盛り込まれています。
一見するとアナライザがあるので自由に設定できそうですが、カット/ブーストできる周波数は予め8つのポイントで固定されていて、カットポイントではブーストできず、Q幅も広めで固定されています。
こう書くと使いにくい印象を持ってしまうかもしれませんが、中級者以上であれば「パルテックEQをパライコに落とし込んだ感じ」と理解するとすんなり入ってくると思います。
また、周波数ポイントは固定ですが3つのフォーカスを選択することができ、全体的な調整だとFull Range、中域処理ならMid-Range Focus、高域処理ならBrilliant といった具合でそれぞれおいしいポイントが予め用意されていているので、EQでの迷いが少なくなって意外と使いやすいです。
ただ「低域膨らんでるけどEQでカットすると細くなっちゃうな」みたいな場面はあるので、前述のようにアナログトーンを変更してみるなど、セクション全体で調整していくのが良いと思います。
EQ全体を調整するLows、Highsに加え、Airコントロールも自然で空気感調整が簡単にできます。
シンプルで使いやすいピッチチューンと空間モジュール
Topline Vocal Suiteのリリースメディアで大々的にフィーチャーされているのがピッチチューンですが、いわゆるケロケロ加工やロボボイスを出したい時に重宝する機能です。
さすがにピッチ修正が全く不要になるかというとそうではなく、それはこれまでのボーカルチューンプラグインと変わりないといえます。
大きく外した部分は手動で修正して、細かい部分はチューン機能を緩やかな設定にして時短する、みたいなことはできるので、ざっくり整えたいときには使えると感じました。
緩やかな設定の時でも細かい揺れが起きて不自然に感じることはあったので、ピッチチューン機能の個人的評価としてはまずまずといったところですが、統合プラグインのイチ機能として扱えるという意味ではコスパが高いと思います。
なお、音源を読み込ませることで楽曲キーを特定してくれる「Topline Key Finder」という機能もありますが、こちらはデモ版では使用できないため今回は検証しておりません。
空間モジュールには、モジュレーション、ディレイ、リバーブがあります。
モジュレーションに関してはサウンド幅は広くありませんが、ディレイとリバーブにはいくつかのモードがあるのでしっかりとサウンドメイクできます。
空間モジュールもUIが秀逸で、少ないスペースで分かりやすくパラメータが配置されているので、非常に使いやすいです。
ダッキングもワンノブなので余計なサイドチェイン操作やスレッショルド設定など不要です。
操作に迷わせない配慮が至る所にあるので、ストレスフリーに操作できます。
サウンドクオリティとしては、特にリバーブの質感は厚みがあって存在感を出しやすく好みでした。
CPU負荷
レイテンシーについては、Liveモードもしくはピッチシフトバイパス時で2.9ms、ピッチシフトのMIXモードで42.9msでした。
CPU負荷は25%程度とかなり重い部類です。(Pro-L2 の 8x OSと同等)
統合プラグインなのである程度重いのは仕方ないように思います。
セクション毎に測ると、アナログセクションの負荷が高かったです。
- OS : macOS Sonoma 14.1
- CPU : Mac M2 12コア
- メモリ : 64GB
- DAW : Cubase Pro 12
- バッファサイズ : 2048samples
- サンプリングレート : 48kHz
- ビット解像度 : 32bit float
- オーディオIF : Prism Sound Lyra1
まとめ
初心者にも受け入れやすいモダンなUIの中で、少ないコントロールでサウンドクオリティとバリエーションが高次元に仕上がっています。
特にチャンネルストリップのモダンとアナログが融合された仕上がりは、他製品と一線を画していると感じました。
初心者の方であれば、とりあえずプリセットをポチポチしていればサウンドが決まるお手軽さが魅力ですし、手持ちプラグインでチェインを組んでる中級者以上の方には、操作性と音質が非常に高いレベルでまとまっているので、時短プラグインとしてかなり魅力的だと思います。