一世を風靡したスーパーファミコン用ゲームソフト「アクトレイザー」の登場から30年、大幅なリメイクバージョンとして「アクトレイザー・ルネサンス」がリリースされました。
初代アクトレイザーに引き続き音楽を担当したのはもちろん、古代祐三氏(@yuzokoshiro)。
今回は、作編曲を手がけた古代氏、そしてレコーディング、ミキシングを手がけたquad氏(@quad_luvtrax)のお二人にインタビューすることが出来ました。
Computer Music Japanらしく、アクトレイザーにどのようなプラグインが使用されたかなど、機材の話題が多めとなっていますので、かなり濃い内容です。
前後編と機材編、計3回に分けてお届けします。
- 1 古代祐三氏、quad氏インタビュー(前編)
- 1.1 アクトレイザー30周年、そしてアクトレイザー・ルネサンスのリリース、おめでとうございます!
- 1.2 大変話題ですごい反響ですね。30年前は、楽曲の素晴らしさはもちろん、当時のスーパーファミコンの性能を最大限に引き出したサウンドクオリティが大きな話題となりました。当時現場には最先端なことをやっていくんだ!という熱狂があったように想像しますが、30年経過した現代では、制作の自由度が上がって大きく環境が変化しています。今回はどのようなお気持ちで、何かテーマを持って臨まれたのでしょうか?
- 1.3 曲はどのような順序で作られましたか?
- 1.4 曲によって作るステップが違ったと。アレンジバージョンからSFC音源バージョンを作るとなると、チップチューンを作るような感じでしょうか。
- 1.5 曲数が大変多いですよね。新曲が15曲あります。
- 1.6 制作期間はトータルでどのくらいかかったんでしょうか?
- 1.7 同じようにquadさんもお忙しかったんですか?
- 1.8 新曲と旧楽曲でそれぞれ思い入れのある曲は?
- 1.9 今回の生演奏曲は「フィルモア」と「アルカレオネ」ですね。
- 1.10 その他の打ち込みに使用した音源について教えて頂けますか?
- 1.11 エフェクトについても教えてください。オーケストラ楽曲が多いためリバーブが気になりますが、何を使用されましたか?
- 1.12 古代さんの制作されたものは、quadさんがミックス・マスタリングされるというのが通常の流れなのでしょうか。
- 2 古代祐三
- 3 quad
古代祐三氏、quad氏インタビュー(前編)
アクトレイザー30周年、そしてアクトレイザー・ルネサンスのリリース、おめでとうございます!
古代氏:ありがとうございます!
大変話題ですごい反響ですね。30年前は、楽曲の素晴らしさはもちろん、当時のスーパーファミコンの性能を最大限に引き出したサウンドクオリティが大きな話題となりました。当時現場には最先端なことをやっていくんだ!という熱狂があったように想像しますが、30年経過した現代では、制作の自由度が上がって大きく環境が変化しています。今回はどのようなお気持ちで、何かテーマを持って臨まれたのでしょうか?
古代氏:ものすごく変な言い方ですが、特別な使命感はなくて、いつもやっているように、どの仕事でもやっているように進めただけなんですよね。アクトレイザーだからこうしようという変な力みはやめようかなと。自然体でいければいいなと思ったんです。
旧アクトレイザーの楽曲を30年経って改めて聴いて、自分の作ったものが思ってた以上に完成度が高かったんですよ。
当時はそれなりにセンセーショナルだったし、評価される自信もありました。
しかし、これだけ年月が経てば、当時の技術的には凄かったけど、音楽的にどうこうっていうものでもないなという認識だったんです。
いざ、蓋を開けてアレンジに取り組んでみたら、ゲーム音楽としての完成度が思ってたより高くてめちゃくちゃよくまとまってるんです。なので、アレンジする隙が見当たらない。
これはスクエニさんからのオーダーだったんですけど、曲を2周してからエクストラパートを入れて欲しいと。
そうなると隙のないものを拡張するというのが、蛇足になってしまうのではないかと。過剰になっちゃうんじゃないか、イメージがズレてしまうのではないかと心配していました。
曲はどのような順序で作られましたか?
古代氏:新曲のSFC音源バージョンを先に作ったんですよ。新曲だと全く悩まずにポンポン出来るんです。
新曲が出揃ってレコーディング残すのみになったところで、その前にアレンジを進めていこうということで、旧音源のオーケストラ版、アレンジバージョンを作り始めたんですけど、上手くいかなくて。
やはり隙のないものにどうやって足していったら良いんだろうと考えている時間や、あーでもない、こうでもないと試す時間が長くて悩みました。一から曲を作った方がめっちゃ早いんですよ。何も制限がないので。
シミュレーションパートの新曲はSFC音源バージョンで制作して、ラスボスやアルカレオネなどはアレンジバージョンから作りました。
そのアレンジバージョン作る時はSFCに乗るかな?と考えることはありましたが、それでも新曲からの方が作りやすかったですね。
曲によって作るステップが違ったと。アレンジバージョンからSFC音源バージョンを作るとなると、チップチューンを作るような感じでしょうか。
古代氏:そうですね。でも、当時やってたことを今はすごく簡単に出来るので。当時は音色を作ることと、NEWSっていう ソニーのワークステーションが非常にやっかいで、トラブルだらけなんですよね。時折リセットがかかって、また立ち上げるのに何分かかかるというのを繰り返しやっていました。
当時はNEWSが高くて個人では持てないので、レンタルするんですが、クインテットさんの社屋に置くので、通わなければいけない。
その場で譜面も書かずに任天堂さんから支給される「かんきちくん」というツールで直接打ち込んでいくので、途中で飛ぶ(消える)と大変でしたね(笑)
そういう苦労が当時はありましたけど、今はサクッと作れるのでその部分は楽でした。
SFC音源バージョンの新曲は、osoumenさん(@osoumen)が作られているC700と、Plogue ChipSynth SFCを使用しました。実機で収録したかったんですが、時間の都合で録れませんでした。
曲数が大変多いですよね。新曲が15曲あります。
古代氏:アレンジ、SFC音源バージョンがそれぞれあって(30曲)、新曲じゃない方のアレンジもありましたね(笑)
制作期間はトータルでどのくらいかかったんでしょうか?
古代氏:2020年の4月に最初の楽曲打ち合わせを行いました。
制作期間は6ヶ月くらいあったので割と余裕があるなと思っていたんですが、ソルクレスタと同時進行だったので大変でした。
2021年12月9日リリース予定の「ソルクレスタ」。FM音源が全面に出ているサウンドに注目。
こちらも曲数が多く、しかも音源が全く違って、考え方も違うので、その期間はめちゃくちゃタフでしたね。
同じようにquadさんもお忙しかったんですか?
quad氏:私の方はレコーディングする時だけなので。2020年7月下旬〜8月頭にかけて最初のレコーディングを行って、ミックスは11月下旬に行いました。なので最初のレコーディングから3ヶ月ほど間が空いていますね。
それから2021年の3月にもレコーディングとミックスを行っています。最終的にフィルモアは2021年4月上旬にほんの少しミックスを変更していますね。おそらく、アルカレオネをミックスした後だったので、それに合わせるように多少調整したのだと思います。
古代氏:収録日が違うことで、後の録音の方が、失敗や改善などを糧にして進めてきてたのでアレンジレコーディング、ミックスすべてが理想的になりましたね。
そのへんが収録の面白さであり、難しさだなと感じました。
新曲と旧楽曲でそれぞれ思い入れのある曲は?
古代氏:新曲はアルカレオネです。一番やりたい事ができました。
アクションステージの追加曲がこれだけだったということと、アクトレイザーは自分の中でアクションゲームなので、しっくりくるんですよね。
Here’s a recording session file of the “Alcaleone” of Actraiser Renaissance. It’s before mixing, but by turning on each section one after another, you’ll listen to them and know how they affect each other in the arrangement. #ActRaiser #アクトレイザー・ルネサンス pic.twitter.com/y49JOVBRit
— Yuzo Koshiro (@yuzokoshiro) October 14, 2021
日本語訳:古代氏「アクトレイザー・ルネサンスの “アルカレオネ “の録音セッションファイルです。 ミックス前の状態ですが、各セクションを次々とオンにしていくことで、聴いていてアレンジの中でお互いがどのように影響し合っているのかがわかると思います。」
ファンの間では有名な話ですが、アクトレイザーは悪魔城伝説の音楽に影響を受けているので、その流れを組んだ曲の作り方が自分の中であるんです。
そういったことも踏まえて、最後のステージだし、ここは一発豪華にバンドで録音しようと決めて、バンドスコアも作りました。最近自分が一番やりなれているやり方と、アクトレイザーのイメージがピッタリ来たというのが気に入った理由です。
アルカレオネで使用された、古代氏のスタジオにあるSteinway B型ピアノ。マイクはAKG C414 XLIIとモノラルアンビエンスでNeumann U87Aiを立てています。90年代にエインシャントさんの社屋にあったものをスタジオ施工の時に移転したもので、以前より雑誌などの古代さんのインタビューで皆さんが見たことのあるものです(quad氏)
旧楽曲は、どれもほどほどに好きなんですが、皆さんがフィルモアを気に入ってくださるので、それも含めてフィルモアですかね。
quad氏:私も古代さんと同じく、アルカレオネとフィルモアですね。自分が録ってミックスしているということも大きいです。
アルカレオネはどういった曲になるのか楽しみでしたし、皆さんご存知フィルモアはどういう風にアレンジされるのかが楽しみでした。
今回の生演奏曲は「フィルモア」と「アルカレオネ」ですね。
quad氏:フィルモアのハープシコードと、フィルモア、アルカレオネのパイプオルガン以外は全て生楽器です。
ハープシコードはYAMAHA TX802、パイプオルガンはYAMAHA reface YCを使用しています。
パイプオルガン風なので、ロータリーはかけないで録りました。
レコーディングでオルガンで使用したreface YC。MIDI接続した古代氏のメイン鍵盤である、SEQUENTIAL Prophet Rev2で演奏されたとのこと。
古代氏:なんでそうしたかっていうと、サンプリング音源は使いたくなかったんですよ。全部楽器にしたいと。
イングヴェイ・マルムスティーンが、昔シンセでパイプオルガンみたいな音を出していたので、それを再現したかったんです。シンセ自体はモデリング音源ですけど、ハードの出音に拘りましたね。
quad氏:フィルモアがトラック50トラック強。アルカレオネが60トラック強ですね。
DAWは古代さんも私も使用しているCubaseでレコーディング、ミックスを行いました。サンプルレートは96kHzで作業しています。
その他の打ち込みに使用した音源について教えて頂けますか?
古代氏:弦音源は、CINEMATIC STUDIO SERIES CINEMATIC STRINGS 2ですね。
これしか使ってないというくらい定番で使っています。他に色々試したんですが、どれも一長一短で…。何にでも合うし、嫌味にならないので、めちゃくちゃ使いやすいんですよね。
他にも人が推してるのを試してるんですけど、”ある特定の旋律が映えるもの”が多い気がするんです。
弦音源って特化型と万能型は相入れないじゃないですか。私の仕事柄万能型のものを選びがちなんですよね。
鍵盤のレスポンスに対して立ち上がりが軽いんですよ。中には立ち上がりが遅いものってあるじゃないですか。
そんな感じで色々嫌な思いをしたりして、またCINEMATIC STRINGS 2に戻ってきた感じです(笑)
ブラスと木管について、初めは近年ずっと使用していた、Orchestral Tools BERLIN ORCHESTRA INSPIREを採用していましたが、後に、Aaronventure Infinite Brass、Infinite WoodWindsに差し替えています。
どのKontakt音源もそうなんですけど、スイッチが面倒くさいんですよね。上手に聴かせるためにはかなり巧みにコントロールしなければならないし、細かく制御する必要があります。
その分トラック数も増えていく…急ぎの仕事の時にクリティカルだったので悩んでいたんです。
そこで、ARAさん(@carrotwine)がTwitterでチラッと書いていた情報を見て、Infinite BrassとInfinite WoodWindsに差し替えました。
これが、めちゃくちゃ当たりで、曲の1/3くらい終盤差し替えたんですよね。音も差し替えたものの方が全然良くて(笑)
全部差し替えたかったんですけど、間に合わなかったんですよ。
Aaronventure Infiniteシリーズを選んだ理由は、CINEMATIC STRINGS 2同様に、「音もそこそこ良いし、使い勝手が最高に良い」使いやすさですね。
仕事柄様々なジャンルを作るので、環境を固定してないんですよ。軽さ、フレキシビリティーが重要なんです。なのでこういう選択になっています。
打楽器はcinesamplesです。ティンパニやシンバル、全般的に使用しています。アルカレオネだけ、野口仁史さん(@N_Project_) がご自身のスタジオで生演奏しています。
エフェクトについても教えてください。オーケストラ楽曲が多いためリバーブが気になりますが、何を使用されましたか?
quad氏:主に使ったリバーブは、LexiconのPCM Native、あとはUADのLexicon 480Lですね。
Lexicon 480Lは元々実機をスタジオで使い慣れているので、実機と同様に主にプリセットのLARGE HALLとA PLATEの2系統を立ち上げてエディットして使っています。
480Lはストリングスとブラス、キーボードなどはPCM Nativeです。
アウトボードについては、基本的に録る時はハードですが、最近のプラグインの性能が凄く良くなっていますのでミックスはITBです。プラグインはFabFilter、UAD、D16 Group、Plugin Alliance、Softubeなどの製品を使うことが多いですね。
古代さんとのミックスの確認や修正などのやり取りはオンライン上で行いました。
現在はスタジオに多人数で集まるのは難しい情勢ですが、オンライン上での作業のやりとり自体は10年以上前から様々な案件で行なっています。
古代さんの制作されたものは、quadさんがミックス・マスタリングされるというのが通常の流れなのでしょうか。
古代氏:きっかけは世界樹の迷宮で、世界樹の迷宮 5からはquadさんにやってもらっています。
それまでは日比野 則彦さんにお願いしていて、池袋のレコーディングスタジオDedeで録ったProtoolsデータを、quadさんがミックスするという流れだったのですが、2013年秋にスタジオを作ったので、それからは少しずつ自身の環境で完結できるようになってきました。
インタビュー(後編)に続く。
古代祐三
古代祐三(@yuzokoshiro)
主にコンピューターゲームの音楽を手がける作曲家、ゲームプロデューサー。 ゲーム制作会社株式会社エインシャント代表取締役社長。 代表作に『イース』、『イースII』、『ソーサリアン』、『アクトレイザー』、『シェンムー』、『湾岸ミッドナイト MAXIMUM TUNE』、『世界樹の迷宮』他。
■あのアクトレイザーが、数々の追加要素とともにリマスター!プレイヤーは“神”として地上に復活し、荒廃した大地を再び人々の手に取り戻すべく立ち上がる!
■1980年代にリリースされ人々を熱狂させた名作『ムーンクレスタ』『テラクレスタ』の魂を受け継いだ、新たなる自在合体シューティングゲームの最新作。
quad
quad(@quad_luvtrax)
レコーディング・Mix・楽曲制作をはじめ、マスタリング、PA、スタジオプランニング等幅広い分野で活動。リモート環境でのオンラインミックスダウン、オンラインマスタリングも対応しています。