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Steinberg WaveLab シリーズは業界標準ともいえるマスタリングツールとして、多くの有名エンジニアの方から愛されています。
バージョン11では、より使いやすさを重視した、数々の機能が盛り込まれているとのこと。
ただ、普段マスタリングツールを利用しない方にとっては、プロの世界でニーズがあっても自分の制作環境には必要あるのかな?という疑問もあるかと思います。
実際のところ、筆者も普段マスタリングツールは使わずにCubaseだけでマスタリングまで完結させています。
そこで今回は、普段マスタリングツールを利用しない筆者が、WaveLab11 Pro を使ってみた率直な使用感や自分の制作環境に導入するべきかという視点でレビューしていきます。
WaveLab Pro 11
WaveLab11を触ってみてまず最初に感じたのは、Cubaseと操作感が全然違うことでした。
同じSteinberg製品で連携も強化されているとのことなので、勝手に操作感は同じだろうと思ってましたが、製品のコンセプトが根本的に違うからか、操作系統もそれぞれに最適化されている印象です。
操作感は違いますが、付属プラグインはCubaseユーザには馴染みあるUIのものがほとんどですし、操作自体も一つ一つはシンプルです。
直感的とはいきませんが、ひと通り触れば問題なく扱えるようになると感じました。
なお、WaveLab 11の基本操作画面には「オーディオ編集」と「オーディオモンタージュ」がありますが、マスタリング作業のメインワークスペースは「オーディオモンタージュ」になります。
オーディオモンタージュでは複数トラックにエフェクトを掛けたりステムができたりと、マスタリングで必要な機能が揃っていますが、オーディオ編集画面は単一データの編集のみです。
この辺りも最初に操作する際に戸惑う部分と思うので(筆者は戸惑った)補足しておきます。
WaveLab 11ではバージョンアップにより様々な新機能が盛り込まれています。
- マルチチャンネルインターリーブ対応
- トラックグループ機能
- トラックレーン機能
- VST3プラグインのパラメーターオートメーション
- VSTエフェクトプラグインの追加
- ビデオ上のオーディオ差し替え
- ポッドキャストホストサービス対応
- オーディオダッキング機能
- スタートアップアシスタントの刷新
- 外部 FX プラグインウィンドウの刷新
- オーディオモンタージュのパフォーマンス向上
- VSTプラグインの操作性向上
- インサートスロット数の増加
などなど、これ以外にも多数の機能追加と性能強化がされているとのことです。
公式サイトでは「マルチ」がコンセプトでマルチチャンネルファイルの対応強化などが大きく挙げられていますが、個人的にはVST3プラグインパラメータのオートメーションが可能になったことが大きな改善ポイントだと思いました。
Cubaseではプラグインパラメータのオートメーションは当然可能ですので、WaveLabでマスタリングをこれまでと変わりなく行うとなるとオートメーションは必須になってくるからです。
ただ難点があって、付属プラグインでオートメーションを作成するには任意のパラメータを右クリックから「エンベロープ作成」で可能なんですが、外部プラグインの場合はインスペクター内の「オートメーション/エンベロープ」からオートメーションしたい値を探す必要があります。
Cubaseのようにオートメーション書込ボタンから操作を記録することはできません。
パラメータの多いプラグインでは値を探すのが大変なので少し不便に感じました。
WaveLab 11で扱える付属プラグインは現行のCubaseとほとんど同じですが、いくつかWaveLab専用プラグインもあります。
専用プラグインの一つ、「MasterRig」はマスタリング統合プラグインでコンプ、EQ、サチュレーション、イメージャー、リミッターの各モジュールを組み合わせるタイプです。
iZotope Ozoneと同じタイプといえばイメージしやすいかもしれません。
特にリミッターはクリアな音質で使いやすく、3バンドのトランジェントシェイパーが付いてるので
例えばブーミーな低域を重量感を損なわずに馴染みを良くしたり、中域のボーカルやシンセの押し出し感をコントロールしたりと細かい処理もこなせます。
また、今回追加されたプラグインの「Frequency 2」は、ダイナミックモード、リニアフェイズモード搭載の8バンドEQでこちらも使い勝手が良いです。
「MasterRig」内のEQモジュールでもこの二つのモードは扱えますが、それぞれ別のモジュールとなっているため、EQとしての機能性は「Frequency 2」の方が高いです。
その他ひと通り必要なエフェクトは揃っているので、付属プラグインの性能や使い勝手は現状でも十分な内容かと思います。
その他機能面では解析ツールやメーター類が充実しているので、マスタリングには欠かせない分析が多面的に可能だったり、オーディオ修復機能によりクリップやグリッチなどをワンタッチで修正できたりします。
こういった機能はDAW側でマスタリングを行った際でも最終チェックに使えますし、逆にミキシング前に素材を整音する際にも役立ちます。
次に出音の音質をCubase 12と比較してみたところ、WaveLab11の方が僅かに低域のレンジが広く解像度が高くなった印象でした。
Cubase 12は60〜80HzあたりがWaveLab 11より持ち上がって聴こえ、WaveLab 11はその下の帯域がCubase 12より感じとれました。
中域の聴こえ方もWaveLab 11はよりフラットに感じましたが、正直プラシーボ効果のようにも思えたので、検証のために同じ2mix音源をそれぞれに読み込ませ、同じマスタリング処理(音圧上げただけ)をして書き出したファイルを比較してみました。
WaveLab 11のオーディオエディター画面では2つのオーディオの比較ファイルを作成できるので、その機能を使って確認したところ、音量レベルは低いものの差分が生じていました。
以下画像はCubase12、WaveLab 11で書き出したファイルとその差分ファイルのスペクトログラムです。
全く同じファイルだと差分のスペクトログラムは真っ黒になりますが、-50dB程度の僅かな差分が生じています。
Cubase 12で書き出したファイル
WaveLab 11で書き出したファイル
差分ファイル
念の為、書き出し処理自体のムラがないかを確認するために、Cubase 12で2回書き出してチェックしたところ、差分はなく全く同じデータになったことも確認できました。
どちらがどう違うのかまでは差分ファイルからは判断できませんでしたが、DAWによって出音に差があることは間違いないようです。
単純な処理でも差を感じたので、実際のマスタリングで処理を重ねると差分はより大きくなると思います。
CPU負荷
WaveLab 11になってマルチコア処理に対応しており、複数トラック処理やステムマスタリングなどで違いを体感できるとのことです。
まとめ
WaveLab 11は多機能ゆえに、どこに焦点を置くかで評価が変わってくると思いますが、今回のレビューでは自分の制作スタイル(ミキシングや個人での楽曲制作)にマッチするかを念頭に検証してみましたが、結論としては導入するメリットを感じました。
決め手は出音の違いで、検証中にEQなど処理も行いましたが、Cubaseで作業するよりもポイントをスムーズに決めれたので、細かい作業が発生するマスタリングではWaveLabに軍配が上がるかなと判断しています。
トラックグループ編集やマルチチャンネルの対応など、応用的な使い方やCubaseでは扱えないファイルを扱えたりと、WaveLab 11の魅力となる部分はまだまだあると思いますので、気になった方は体験版で操作感や音質などチェックしてみても良いかもしれません。
※バージョン11.1では、新しいライセンスシステム「Steinberg Licensing」が採用されe-Licenser(USBドングル)が不要になりました。