「Kirchhoff-EQ」「Cenozoix Compressor」など最先端技術を搭載した製品が高く評価されているThree-Body Technologyから、今回はOTTスタイルのボーカル用ダイナミクスプロセッサ、『VO-TT』を紹介いたします。
OTTの原点は、DAWのAbleton Live付属プラグイン”Multiband Dynamics”のプリセットですが、その特徴的なサウンドがEDM系クリエイターなどに好評で瞬く間にDTMerに浸透し、各社からモデリングタイプのプラグインがリリースされるなど、『デジタルネイティブの1176』といっても過言ではないほど浸透しているサウンドだと思います。
そのUIから、VO-TTはLiveのオリジナルではなく派生のXfer OTTからインスパイアされていることが伺えますが、高性能多機能製品に定評あるTB Techがどのようなコンセプト/アレンジを加えているのか、使用感を交えながらレビューさせていただきます。
VO-TT
VO-TT はその名の通りボーカル専用ダイナミクスプロセッサとして開発されていて、OTTと聞いて想像するようなバキバキのサウンドはもちろん、微細なセッティングまで対応していて、ボーカル用途として使いやすさを優先した設計になっています。
Xfer OTTを使ったことがあればマニュアルを見なくてもひと通り操作できるぐらい操作感も寄せて作られていますが、もちろんTB Tech社製らしさも多く取り入れられています。
VO-TTは、大きく3つのセクションに分かれています。
12の基本スタイル
Clean、Bright、Warm、Pop、EDM、など12の基本スタイルが選択できます。
スタイル選択により後述する5つの周波数のプロセシングレンジが変化するなど、いきなりTB Techのアレンジが際立っていますが、ひと目でイメージできる分かりやすい名称になっているので違和感なく操作できます。
メインコントロール
VO-TTのコア機能となるエキスパンダー、アップワード/ダウンワードコンプのレシオ、全体の掛かり具合の調整(Amout)などメインのコントロールになります。
馴染みある名称が並んでいるのでOTTを操作したことがあれば特に問題なく操作できます。
5つの周波数帯域と4つの処理段階
このコントロールがVO-TTの最も特徴的な部分です。
Air、Pres、Clear、Warm、Bodyの5つのマルチバンドでエフェクトが掛かるレンジ(プロセシングステージ)の調整、それぞれのゲインと帯域の偏り(オフセット)の調整ができます。
プロセシングステージは、中央のスライダー操作によって、エキスパンダー、アップワードコンプ、Null、ダウンワードコンプの4つの処理段階を、どのレンジで適用するかを調整します。
例えば、エキスパンダーの範囲を増やせばそのバンドはゲートサウンドぽくキレが良くなって、ダウンワードコンプの範囲を増やせばそのバンドのコンプ量が増えて音量が小さくなります。
文字では理解しにくいと思いますが、実際操作してみると各バンドで、In/Outのメーターが表示されていることもあり、変化が分かりやすくなっています。
また、帯域のオフセットは各バンド名の間にパーセント表示されているもので、-100% 〜 +100%で調整できます。
例えばWarmとClearの間を+100%にすると、WarmとClearで調整する帯域の中心が高周波側に移動します。(傾きが変わる)
Warmは0%の時、250〜350Hz(スタイルによって可変)が中心のカーブになっていますが、+100%時は300〜400Hzが中心になります。
Clearも0%時は1.5kHzあたりが中心ですが100%時は2kHzあたりが中心になります。
使い方としては低域の重心を低く(高く)したい、歯擦音の狙う帯域を少しずらしたいなどが考えられますが、あくまで質感の微調整用途であり、大幅な調整はできないようです。
個人的にこのオフセット機能はTB Techらしい玄人志向の一面だと思います。
使用した印象
アップワードコンプが使いやすく、音圧がガツっと上がるので存在感を出したい時に有効です。
この辺りの使い勝手はインスパイア元のXfer OTTと同様の印象でした。
印象が違った点としては、より微細な調整まで対応できる部分だと思います。
微細といっても複雑になりすぎることなく、ちょうど良い塩梅で収まっているところも好印象です。
また、VO-TTはほとんどノイズレスなのでノイズが目立ちやすい素材にも安心して使えます。
OTTスタイルのプラグインの中にはオリジナルから離れすぎてOTT感覚で使えないものもありますが、VO-TTはしっかりOTT感覚で扱えるバランスに優れた製品に思います。
気になる点
メリットの一つとしてノイズレスを挙げてはいますが、そのノイズの低さ故にサウンドが大人しくザラつきが少ないことが場合によっては気になるかもしれません。
CPU負荷
1個インサート時のCubase負荷は5%程度でした。
コンプ単体と考えると軽くはないですが、EQ的機能もあって統合ツールとして考えれば気になる重さではないかと思います。
また、ゼロレイテンシー動作になっているので遅延が気になる環境でも安心して使えます。
- OS : macOS Sonoma 14.1
- CPU : Mac M2 12コア
- メモリ : 64GB
- DAW : Cubase Pro 14
- バッファサイズ : 2048samples
- サンプリングレート : 48kHz
- ビット解像度 : 32bit float
- オーディオIF : Prism Sound Lyra1
まとめ
マルチバンドダイナミクスプロセッサーという名目ではありますが、バンド数が5つあってそれぞれゲイン搭載、オフセットである程度カーブの可変もできるとなれば、”OTTスタイルのチャンネルストリップ”と解釈もできるぐらいには幅広い用途に対応できると思います。
とりあえず最初にこれをインサートして大まかな音作りをしておけば後の処理も効率よく行えるように思えますし、時短系プラグインとしては安価なので気軽に導入できるのも本製品の大きな魅力だと思います。