2020年に登場してから著名なプロエンジニアを始め、数多くのユーザーから高く評価されているVoosteQ社 の Material Comp のレビューです。
実はリリース当初、筆者自身のブログでもレビューさせていただきましたが、日頃の作業においても毎回のように使用しており、リリース当初よりも本製品を理解できているので改めて今回、レビューさせていただきたく思います。
また、動画ではMaterial Comp の性能を引き出せる実践的使い方も紹介していきますので、これから購入を検討する方はもちろん、既に製品を持ってるけどイマイチ使いこなせてないという方も満足いただける内容になっていると思います。
Material Comp
非常に多機能で万能なMaterial Compですが、簡潔に表現すると、『アナログ質感の選択肢が非常に多い現代的コンプ』かと思います。
既にアナログ製品をモデリングしたプラグインは多数ありますが、見た目もそれっぽくて、パラメータも基本的にモデリング元に則したものが大半です。
例えば、1176の音が欲しければ1176のモデリング製品、SSLコンソールの音が欲しければそのモデリング製品を一つずつ、あるいは併用することが普通です。
それに対しMaterial Compは、独自のインターフェイスの中でアナログ回路やコンプレッサーの挙動をそれぞれ選択可能なので、”アナログの質感”をユーザが自由に設定できることが大きな特徴です。
なので例えば、”SSLの回路で1176ぽい挙動を基本に、ClassAのサチュレーションを足す”みたいなことが一つの製品で可能になっています。
ただし、核となるサウンドの方向性はアナログというより現代的で、アナログ質感を付与しても変わりません。
このため、オールドなアナログサウンドを目指して使うよりも、『モダンサウンドのコンプにアナログ質感を付与していく』という感覚が近いと思います。
主な特徴・性能
- VoosteQ独自のアナログ回路シミュレーション技術”DFP”を採用
- 6つのコンプレッサータイプ
- 6つのプリアンプのサチュレーション
- 8つのアナログ回路のシミュレート
- 4つのグルータイプ
- 2倍のオーバーサンプリング
- 表示に高性能なアナライザー
- 完全64-bit内部処理による、最先端の透明感のあるサウンド
- 非常に低いCPU負荷
- ディアクティベーション(認証の解除)に対応
- ステレオ/モノ対応
- 最大192kHzまでのサンプリング・レートに対応
- 外部サイドチェインに対応
- リサイズに対応
- PDFマニュアル(日本語版、英語版)付属
※マニュアルから引用
上記のような特徴がありますが、その中でも最大の特徴は『最先端の透明感のあるサウンド』にあると思います。
Material Compの核となるサウンドが現代的で扱いやすいことがこの製品の使いやすさと万能さに直結しているように思うのです。
透明感といっても、まるでコンプが掛かってないようなクリアな音質ということではなく、クリアな音像は維持しつつ、現代的な音色を作る上で欠かせないトランジェント処理はしっかりと行い、サチュレーションによる厚みや飽和感もしっかりと付与してくれます。
ある程度適当に設定しても音が立ってくれるので、透明感を重視した製品にありがちな繊細なセッティングを求められることや、製品のパワー不足を感じることもありません。
また、積極的なセッティングでも破綻しにくいマージンの広さがあるので、Material Compの副作用を他のプラグインで対処することもほとんどなく、安定してエフェクトチェインを組むことができます。
Comp Mode & Compressor Section
基本的な使い方としては、最初にコンプモードを選びます。
- Modern モダンな挙動と質感
- 60’s FET 76系モデリング。AttackとReleaseの調整範囲が変わる
- Luxe VCA ナチュラルなVCAサウンドで、しっとりと掛かる
- Studio Master 一番味付けの少ないキャラクター
- OPTO ほどよく緩やかな挙動のオプトタイプ
- TUBE 太めのサウンドと緩やかな挙動
6つのモードは比較的違いが分かりやすく、ある程度アナログモデリングコンプを触ったことがあれば、すんなり理解できるようになっています。
デフォルトのモードは Modern になっていますが、アタックリリースの挙動がはっきりとしているので
よく分からないまま使うと、きびきびした動作に戸惑うかもしれません。
ナチュラルな挙動は Studio Master や OPTO なので、Modern の挙動が合わない場合はこの辺りをおすすめします。
Compressor Section にはレシオ/アタック/リリースなど一般的なパラメータが並びます。
v1.5よりAttack と Release にオートモードが追加されたので細かい設定を省きたい場合や、ダイナミクスが激しい素材に最適です。
アナライザ画面の左側にあるInput Section には、同じくアップデートで外部サイドチェインも追加されているので、低域をスルーさせてより低域のもわつきを抑えることも簡単にできます。
Preamp Spice & Analog Flavor
Preamp Spice と Analog Flavor ではサチュレーションやアナログ的質感を加えることができます。
”Preamp Spice” は6つのサチュレーションを選択でき、”Analog Flavor” は8つのコンソールエミュレートで、倍音付与と若干ローカットなどEQが掛かります。
コンプ機能は使わず、この2つのセクションだけ使うことも可能なので、手持ちにコンソールやサチュレーションが少ない場合の選択肢としても活躍できると思います。
Special Section
筆者的に推したい機能のひとつが、Special Section です。
- Punch 独自の技術でより強いアタックを付加
- Groove 独自の技術で最適なグルーヴを付加
- Imager 低域に影響を与えず中域以上をステレオに広げる
Punch は特におすすめで、シェイパーとは違う密度の高いアタック感を得れます。
とりあえずこれを持ち上げれば簡単に音が前に出るのでボーカルやドラム処理には最適です。
Grooveはサスティン部分がしっかり聞こえるようになるので、音が細い素材に対し自然に存在感を高めたい場合などに使えます。
動画でもボーカルやドラム素材の設定例を紹介しているので、是非ご覧ください。
Glue Magic
筆者的推し機能ふたつ目は、Glue Magic です。
グルー効果をモデリングしたものなので、マスターバスなどに使用すると良いのですが、使い方を限定するのは勿体無いぐらいの機能だと思います。
- Studio Console SSLバスコンプのモデリング
- Aggressive Pumping ポンピングが強めに掛かる
- Pop Tune 明るい質感
- Deep Bass 暗めの質感
上記4つのモードから選択できますが、バストラックだけでなくトラック単体に使用することでコンプのキャラをより幅広く調整できます。
どのモードでも音に重量感が加わるので、存在感を出したいトラックに最適です。
Special Section のGroove と効果は似ていますが、また違う結果になります。
個人的な印象としては、Groove は明確にトランジェントを調整してる感があって、Glue Magic はコンプのキャラが変わっていく感覚です。
改善してほしいポイント
アップデートを重ねたことでかなり使いやすくなっているので、目立ったデメリットはないと思います。
あとは本当に音の好み、操作性の好みの範疇かと。
概要部分でも記載しましたが、アナログ製品の完璧なモデリングということではないので、サウンド傾向は似てるものの、本家とは違う音です。
例えば、60’s FETモードは他の76モデリング製品と比較してもあまり似てるとは思わないですが、特徴は捉えてるのでこれはこれで新しいFETと思えば良いのかなと思います。
CPU負荷
CPU負荷は軽いです。10個挿したときにCPU使用率4%ほどでした。
(Analog Flavor ON、OverSampling ON で検証)
- OS : macOS Big Sur 12.1
- CPU : 3.6 GHz 8コアIntel Core i9
- メモリ : 40 GB 2667 MHz DDR4
- DAW : Cubase Pro 10.5
- バッファサイズ : 512samples
- サンプリングレート : 48kHz
- ビット解像度 : 32bit float
- オーディオIF : Antelope Discrete 8 SC
まとめ
現代的なサウンド作りには欠かせないコンプであることは間違いないと思います。
実際、筆者は毎日のように本製品を使っていて他に代用できないと感じています。
設定項目が多いので、初心者の方や慣れないうちは使いこなせないかもしれませんが、一つ一つ効果を確かめていけばこの製品の凄さを体感できると思います。
わりと頻繁にセールをやっているのも嬉しいところです。多機能万能ぶりに似合わない価格になってたりします。
なお、本稿執筆時点のバージョンはv1.6が最新ですが、近々アップデート予定のv1.7では、CPU負荷が25%ほど減少するとのことです。
v1.6時点でもかなり軽い部類ですが、より気軽に使えるのは嬉しいですね。
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