国産プラグインメーカーのVoosteQから満を持しての新製品、Model N Channel がリリースされました!
同社の初製品である Material Comp は国内外/プロアマ問わず高く評価されていて、筆者も発売から今日まで常にファーストチョイスで使用しているぐらい愛用しています。
そんなVoosteQのプラグイン第二弾『Model N Channel 』は、”これぞVoosteQ!”と言わんばかりの会心の製品に仕上がっていて、思わず使いながらニヤけてしまうほどでした。
本レビューでは、その幅広い機能性や本製品を使う際に押さえておくべきポイントを、なるべく分かりやすくお伝えしていきたいと思います。
動画解説では機能解説に加えてサウンド変化を体感できますので、そちらも併せてご覧いただけると幸いです。
Model N Channel
製品概要
Model N Channel は、Neveのプリアンプ、コンプレッサー、イコライザー、トランスなどアナログ回路をモデリングしたチャンネルストリッププラグインです。
Neveは超人気メーカーなのでチャンネルストリッププラグインも各社から数多くリリースされていますし、既にお気に入りのNeveモデリングを持っている方も多いかと思います。
では後発プラグインとしてModel N Channel の魅力はなにか。他のNeveモデリングプラグインと何が違うのでしょうか。
本製品を理解する上で重要な記載がマニュアルにあったので引用します。
Model N Channel はオリジナルの実機の音質や音色、実機を通した際の質感をそのまま再現するのではなく、DAWのプラグインとして使用した際に、扱いやすい音質や操作性に拘りました。
オリジナルの実機と同じ音を目指すより、実機の特徴をプラグインとして複数インサートし、使いたくなる要素を優先し、音質を調整しました。
上記のとおり、Model N Channel は実機の完全再現よりも扱いやすい音質と使い勝手にこだわったVoosteQ印のプラグイン、とのです。
これは同社のMaterial Comp が、様々なアナログコンプをモデリングして選択できる上で、音質や質感はVoosteQのオリジナリティで統一されていることにも共通しています。
アナログとデジタル、オールドとモダン、これらを高水準に掛け合わせて唯一の音を作る。
これがVoosteQ製品の共通コンセプトのように思えますし、実際にModel N Channel を使用した印象としても、それを体現できているように感じました。
主な特徴
Model N Channel の大きな特徴として、
- 3つのプリアンプタイプ
- 2つのコンプレッサータイプ
- 3つのEQタイプ
- 5つのアナログ回路シミュレート
があります。
チャンネルストリッププラグインは『ひとつのアナログ製品をモデリング』したものがほとんどですが、Model N Channel は複数のプリアンプ、コンプ、EQ、アナログ回路を組み合わせできるので、非常に多彩な音作りが可能です。
更に細かい選択肢として、
- 各セクションのON/OFF
- プリアンプのLine/Mic入力 切替
- コンプレッサーのSLAM ON/OFF
- EQのMid Hi-Q ON/OFF
- マスターセクションのCondition 調整
- 実機アナログノイズの ON/Mute/Disable
があり、それぞれON/OFFや調整で質感や周波数特性が変わるので、質感の多彩さという点では、他のチャンネルストリッププラグインを圧倒しています。
そしてなにより、GUIがかっこいい…!
重厚感ある見た目で、つい触ってみたくなります。
かっこよさだけでなく、それぞれツマミも分かりやすく配置されているのでアナログ系プラグインに慣れていない方でも、すんなり操作できると思います。
音質、質感
Model N Channel の音質/質感を一言で表すと、『濃密なローミッドとシルキーな高域』と感じました。
この特徴は多くのNeveモデリングプラグインでも感じることができるのですが、Model N Channel はその質感がより高品質に、滑らかに、違和感なく感じました。
いやらしくないサウンド、と言いますか、粗がなくスッと音がまとまる感覚があります。
特に高域の減衰(ロールオフ)が気持ち良く、EQで高域をブーストしても痛い成分が出にくいので攻めたセッティングでも音がまとまってくれます。
また、プリアンプ、EQ、アナログ回路のタイプ選択では人気のオールドNeveだけでなく近年のNeve製品のモデリングも搭載しているので、比較的フラットな質感変化で仕上げることもでき、どんな素材にもマッチする万能さもあります。
ここからは各セクションについて記載します。
Preamp Section
プリアンプセクションでは、歪みや質感を付与してサウンドをトリートメントしたり、あるいは強烈に歪ませて飽和させたりできます。
タイプ選択についてはどのセクションも『84』『31』『Mod』といった有名な実機を彷彿とさせる名称になっていてグラフィックも変化するので、事前知識があればサウンド傾向がすんなり入ってきます。
84 :70年代実機のモデリング。癖のある中低域が特徴。
31 :80年代実機のモデリング。『84』より中音域に特徴があり暗めの質感。
Mod:近年の実機モデリング。『84』や 『32』と比べてフラットな特性。
Plugin Doctor で検証したところ、タイプ切替による周波数特性の変化はほとんどなく、倍音構成とノイズ量に変化がありました。
下の画像は、Preampを最大の80dBまで上げた時の各タイプの倍音分布です。
『84』
『31』
『Mod』
ご覧のとおり結構な違いがあり、ここだけでも幅広く音作りできるので感覚的にはサチュレーションプラグインを扱ってる感じです。
さらに本製品にはLine/Micの切替があり、これはあまり見慣れない項目ですがMicを選択するとプリアンプの特徴が色濃くなり、歪みも多くなります。
ザラつきが強調されるので、単純にボーカル素材だからMicを選べばよいというものでもなく、素材との相性をチェックしながら好みの質感になるように調整するのが良さそうです。
なお、Preampツマミはユニティゲインが採用されており、ゲインを上げても音量は大きく変わらず歪み具合の変化を正確にモニターできます。
Compressor Section
コンプレッサーセクションは70年代実機モデリングを2タイプから選択できます。
25 :太く荒めのサウンド
32 :中域が締まったサウンド
どちらもヴィンテージ個体のモデリングですがキャラは全く違っていて、例えばドラムバスでスネアを前に出して荒々しさを付与したい時は『25』、スネアを引っ込ませて馴染ませる時は『32』、など出力されるサウンドから明確に方向性を感じ取れます。
クリーンでキビキビ動く現代的サウンドにはならないので、方向性が合わなければ不要と判断することも簡単です。(それこそMaterial Compの出番ですね)
また、SLAMボタンをONにすることで倍音と歪みが加わり、より荒い質感になります。
リダクションの動きも大きくなるので高レシオでより攻撃的なサウンドを作ることもできますし、低レシオ低リダクションでグルー効果を狙うなど、多彩なアプローチが可能です。
Equalizer Section
イコライザーセクションはプリアンプと同じく3タイプから選択できます。
84 :70年代実機のモデリング。中低域の太さが特徴。
31 :80年代実機のモデリング。中音域のコシがあり暗めの質感。
Mod:近年の実機モデリング。高域が伸びがあり『84』『31』よりフラット。
アナログNeveのEQの特徴として、”周波数ポイントを動かすと特性も変化”していくのですが、Model N Channel でも採用されているので、EQのゲインを調整せずとも質感調整できます。
例えば、タイプが同じ『84』であっても、周波数ポイントを全部OFFにした状態と、10kHz、7.2kHz、OFF にした状態では下画像のような違いがあります。
『84』全部OFF
『84』10kHz、7.2kHz、OFF
EQのゲインはゼロであっても、高域の特性が1dBほど変わっています。さらに後者のタイプを『31』に切り替えて『84』の全部OFFと比較すると、
『31』10kHz、7.2kHz、OFF と 『84』全部OFF 比較
このように全然違ったカーブになります。
慣れてないとこういった特性が不便に感じることもあるかもしれませんが、慣れてくると”アナログ機材をいじってる感”がすごく楽しくなってきます。
冒頭で「思わず使いながらニヤけてしまう」と書きましたが、タイプとEQポイント、そして後述のAnalog Flavorを切り替えて質感を追い込んでいくのが最高に楽しいので、是非味わっていただきたいです。
もちろんEQ自体の音質も非常に高品質で、ブーストする楽しさを味わえる音になっています。
高域をブーストしても痛い成分が目立たずシルキーですし、低域をブーストしても変にこもらずに重心が下がった感覚があります。
デジタルEQのように細いカーブにはならないのでピーク成分のカットには向いてないですが、積極的な音作りと質感調整を楽しめるEQになっています。
Master Section
マスターセクションでは本製品の大きな特徴であるAnalog FlavorやConditionの他、オーバーサンプリングやEQルーティング切替が行えます。
Analog Flavor はトランスやアナログ回路のシミュレートを6タイプから選択できます。
入出力トランスはオーディオ機器に必要なパーツのひとつですが、Neve製品はトランスに強いこだわりがあることを創設者の故ルパート・ニーヴ氏も語っていました。
None :バイパス
M-Air :70年代ヴィンテージのトランス
CRN-H :近年のトランス
Console A :70年代のスタジオコンソール
Console B :90年代のスタジオコンソール
Fake :偽物として流通した個体
Analog Flavor を切り替えると主に周波数特性が変わり、コンプ感や倍音構成も若干変わります。
M-Air、CRN-H、は高域のロールオフと太さが加わりパンチのある質感に、Console Aは角が取れて滑らかに、Console B、Fakeはハイファイ寄りの質感になります。
微妙な変化ではありますが、最後にひと振り、スパイスを加えたいときに役立ちます。
Condition は、新品の状態〜酷使された個体のコンディションを調整するツマミで、Preampの歪み、コンプレッサーの質感、EQのかかり具合に影響します。
AGED方向に回していくと独特な曇った音になっていき、NEWにするとカラッとした音になります。
GUIがアナログ感満載なので、ついオールディな質感に偏って音作りしてしまいそうですが、Condition をNEW、PreampとEQをMod、にすると現代的なクリアサウンドもお手のものなので、本製品の多彩さや自由度の高さが伺えます。
その他
画面上部のヘッダーセクションではプリセット選択、A/B切替などがあり、一番右のOptionボタンでオプションが表示されます。
そしてこのオプションの中で重要な項目が Analog Noise です。
アナログ系プラグインには実機のノイズをサンプリングしているものが多くあり、実機の再現には欠かせないパラメータです。
ただ複数トラックで使用すると無音時のノイズが目立ってくるデメリットもあり、ゲートを入れたりボリュームをオートメーションさせたり泣く泣くOFFにしたり、という判断を経験された方も多いと思います。
しかしModel N Channel では従来のON/OFFとは別に”Mute”があり、ノイズを出力させずに内部DSP動作のみノイズを付加させることができます。
つまり実機的なアナログ感は維持しつつ無音時にノイズが残ることはないという、ノイズへの最適解ともいえる設定です。
この設定は他社プラグインでも中々ない画期的な設定だと思うのですが、こんなオプションの端っこにあっていいのかな、と思ってしまいますね…
CPU負荷
CPU負荷は、同社Material Compのレイテンシーが8ms程度に対し、Model N Channel は32ms程度でした。(全セクションON、オーバーサンプリングOFF)
他のチャンネルストリッププラグインが20〜30ms程度だったので特別軽いとはいえませんが、とはいえこれだけのタイプ切替を搭載してることを考えると低負荷と考えても良いと思います。
- OS : macOS Ventura 13.4
- CPU : 3.6 GHz 8コアIntel Core i9
- メモリ : 40 GB 2667 MHz DDR4
- DAW : Cubase Pro 12
- バッファサイズ : 2048samples
- サンプリングレート : 48kHz
- ビット解像度 : 32bit float
- オーディオIF : Prism Sound Lyra1
まとめ
Model N Channel は、オールドからモダンまでサウンドの振り幅が広く、『質感調整』をとことん突き詰めた、従来のチャンネルストリップとは全く違うアプローチの製品です。
音作りの自由度が高く最初は戸惑うかもしれませんが、基本的な音質がかなり高水準なので、適当にツマミを回してるだけで音がかっこよくなっていく感覚があります。
モデリング精度も高く、実機さながらのNeveサウンドが手軽にいくつも手に入るのがシンプルに嬉しいですし、オールドNeveはまだしも近年のNeveモデリング製品は多くないのでレアです。
Material Comp同様、全てが高水準でまとまっているのでどなたにもおすすめしたい製品です。
Computer Music Japan StoreではMaterial Compとのバンドルや、クロスグレードも取扱っております。