まものろKAI!〜まもるクンは呪われてしまった!〜発売記念企画 安井洋介氏インタビュー 【中編】

発売から17年が経過するも、いまだゲーム音楽ファンからの熱狂的支持を集めるシューティングゲーム「まもるクンは呪われてしまった!」のリメイクバージョン「まものろKAI!~まもるクンは呪われてしまった!~」が2025年9月25日に発売されます。

今回は「まものろKAI!」の発売を記念しまして、80~90年代のゲーム音楽を作らせたらこの人の右に出る人は居ない!といっても過言ではないゲームミュージッククリエイターの安井洋介氏(@yousukeyasui)にインタビューが実現しました。

まものろと言えばYO-KAI Disco、YO-KAI Discoと言えば安井洋介氏と連想する方も多いことでしょう。

今回は、YO-KAI Discoが生まれたきっかけや、「まものろKAI!」で書き下ろされた新曲への想いなどについても存分にお話いただきました。

今回はインタビュー中編となります。

目次

制作環境や機材についておうかがいします。制作用PCはWindowsでしょうか?DAWは何をお使いですか?

 

安井氏自宅の制作環境。シンプルかつ整然としていて、制作に集中できそう。メインのキーボードはM-AUDIO Keystation49 mk3。作業状況や気分次第でKORG nanoKEY 2, M-AUDIO Keystation Mini 32 III, Native Instruments KOMPLETE KONTROL M32などの小型鍵盤を使う時もあるとのこと。

◆使用機材

  • PCキーボード:エレコム TK-FBM119KBK
  • マウス:Logicool M750
  • トラックボール:Ewin トラックボールマウス(手の疲労時に使用)
  • オーディオIF:Arturia MiniFuse 2
  • ディスプレイ:JAPANNEXT JN-VC315UHDR(31.5インチ 4K 湾曲パネル)

安井氏:DAWはCubaseで、OSはWindowsですね。Macは業務上必要な時だけ触る程度です。

元々PC-9801系パソコンでCOME ON MUSIC Recomposerを使っていて楽器もろくに弾けなかったので、DAWに移行した時はステップ入力しやすそうだったWindows版のLogicを使っていました。その後2007年にCubaseに乗り換えました。

一応Ibanez RGA42FMというギターも持っていて、ギターらしい音運びを作りたい時などに使ってます。弾いて録音してみる事もありますが下手なのでチョイ足し程度ですね。

PCオペレーションには昔から変にこだわりがある方なんですが、初めてFPSのゲームに触れた時に「左手キーボード+右手マウス」という操作スタイルに衝撃を受けて、DAWもその形で扱えるようにWASD(FPSでのW:前進 A:左移動 S:後退 D:右移動)中心でオペレーションできるようカスタマイズして使っています。

PCキーボードは長年テンキー付きのフルサイズを使っていたのですが、肩こりが酷くなった時に色々見直して、肩幅が広がらないテンキーレスタイプに変えました。

またデスクはスタンディングデスクになるタイプで、立って食後の睡魔と戦ったり、踊りながら作業したりもしています。オススメです。

モニタースピーカー、ヘッドホンは何を使用されていますか?

今はメインのヘッドホンとしてSony MDR-1AM2、サブでイヤホンにApple EarPods、スピーカーにEdifier MR4を使っています。

ヘッドホンは以前までSony MDR-7506を使っていたのですが、ふと、もっと解像度の高いものに変えてみたくなって秋葉原のe☆イヤホンさんで試聴しまくってMDR-1AM2に決めました。全体の音質バランスや、本体の軽さも良いですが、特に超低域の聞こえ方が気に入っています。

ヘッドホンは音創りの要のアイテムなので、できるだけ生産完了にならず末永く使える機種を使いたいのですが、この機種は残念ながら生産完了してしまいました。

イヤホンはiPhoneに付属しているApple EarPodsで、音質の追い込みまでしていないラフ作曲時などに使っています。昔は、これで曲作りをしてる方がいてビックリしたんですが、製品としては世の中の多くの方が持っているリスニング環境でもあり、音質的にもクセはありますが悪くないと思ってます。それと何より、めちゃくちゃ手に入れやすいのが強みですね。

スピーカーは、それで音作りする事に慣れていないのでチェック用に使っているだけです。カーステレオやDAISOスピーカーでチェックする時もあります。

安井さんの代表作のひとつである「エスカトス」などの、FM音源主体の楽曲で使用されている機材について教えていただけますか?

安井氏:メインで使用しているFM音源はVOPM(以下VOPM)ですね。昔はNative Instruments FM7を使っていました。

後に登場した、INPHONIK RYM2612や、AlyJameslab FM DRIVEなども試しましたが、個人的には分かりやすさや慣れもあって結局VOPMに落ち着いています。また、しっかり試せていませんがPlogue chipsynth MDは評判も良いので使ってみたいですね。

FM7や後継のFM8は、6オペレーターでフィルターも搭載されていたりして非常に自由度が高いですが、昔のアーケードゲームサウンドのYM2151音源(4オペレーター)らしい音を出したい時は逆に手間がかかる所もあったので、用途によって使い分けてます。

いかにもゲームで使用されているFM音源といえば、YM2151(4オペレーター・8アルゴリズム)ですよね。

安井氏:あとVOPMは、マルチティンバーで鳴らせるのも自分には大きいポイントです。

昔のアーケードゲーム風のFM音源で作りたい時、それらしいミキシングにするためにパンの設定を3段階(中・左・右)だけで使うんですが、例えばコードを3和音で鳴らす時、3音をそれぞれ中央・左・右のパンに振って鳴らしたりもします。

これをDAWでやりたい場合、通常はおそらく3つのトラックに分けて1音ずつ鳴らすかと思いますが、VOPMはマルチティンバーを利用して、和音の構成音のチャンネルを1,2,3のように設定して、あらかじめチャンネル毎に音色やパンを設定しておくことで、1トラックのデータ内で違う音を鳴らす事ができるので、そういう使い方でも重宝してます。

あとは少しずつ手を加えてきた自分の音色セットもあるので、それを使い続けたい所もありますね。

和音のトップノートからチャンネル1,2,3と分けている例(キーエディターのイベントカラーメニューを”チャンネル”表示にすることで色分けされている)

ただしピッチベンドやコントロールチェンジ等も3チャンネル分入れるのは手間で見落としも起こるので、1チャンネルだけ入力してトランスフォーマーで2, 3チャンネル分に複製している。

VOPMはCPU負荷が軽いのも良いですよね。

安井氏:そうですね。VOPMで負荷を意識したことはないです。まぁ見た目は無骨すぎるんですが(笑)、1画面だけで分かりやすく、エフェクトもない素直なFM音源サウンドしか鳴らないのが逆に良いのかもしれないですね。

ただPlogue chipsynth MDやSteinberg FM Labなどはずっと気になってるので、どこかで変えてみるかもしれません。

ゲーム音源系で、FM音源の他には何を使われていますか?

安井氏:PSGも鳴らしたいときはPlogue Chipsoundsを使っています。今でこそゲームチップ音源は色々出ていますが、これが出た当初は群を抜いてマニアックな事が出来たので驚きました。

特にファミコン音源のシミュレーションには欠かせない、ノート発音から1フレーム後に矩形波のデューティ比を変えるなどのテクニックが、この音源だと内部でシーケンスを組んで設定できるのでとても便利でした。

ただ最近知ったんですが、同様の事がMagical 8bit Plug 2でも出来るようになっていたので、今ですとこちらの方が良いかもしれません。

サンプラーはどうでしょうか?

安井氏:ゲーム音源系の音作りなら、使い方はシンプルなので割と何でも良いんですが、ドラムにはSteinberg Groove Agent SE、その他の楽音にはNativeInstruments Kontaktを使っています。それらでサンプルを組んだ後に、昔のゲームの音らしくなるようSteinberg BitCrusherでローファイに劣化させています。

ビットクラッシュする時のサンプリングレートやビットデプスは、想定する音源チップの仕様に厳密に合わせてはいなくて、聴感上「それらしく」聞こえるかどうかで決めています。

というのも昔のゲームハードの音は、音源チップからのD/A変換、アンプやスピーカーの特性、筐体の鳴りなど、様々なアナログ要素も相まって最終的な出音となっていたので、そこまでのシミュレーションはせずに聞こえ方の印象で調整しています。

また昔のゲームは、例えばKORG M1やYAMAHA RXシリーズなど、当時の市販のシンセやリズムマシンの音がよく使われていたので同じ音を使ったりもしますが、音階によって何段階かのサンプル素材が使われていたりもしたので、ゲームハードのROM容量が少ない時代の音らしくなるようにサンプル素材は一つだけ録って別のサンプラーで鳴らし、ピッチを変化させた時の無理矢理感が出るようにしたりもします。

それは徹底した拘りですね!ソフトシンセから録るのでしょうか?

安井氏:ソフトシンセから録るかサンプル素材を使う事が多いですが、Roland SC-88Proは実機を持っていたのでハードから録りました。オーケストラヒットや、SC-55マップのスラップベースが特に好きです。

安井氏「DTMの様々なテクニックを教わったSC-88Pro、加護ちゃん仕様です」

他にも例えばAKAI S1000の付属ライブラリのスラップベースや、Roland R8のドラムなど、コナミやナムコのゲームでよく聞いていた音だったので憧れもあって好んで使ってます。

ゲームのサンプリング音源に関しては、そういった技術が使えるようになった当初の話しを細江慎治さん(@shinji_hosoe)などから教えて頂いたのですが、まずループを繋いで長い音を自然に鳴らす事自体が難しかったそうなので、特に初期の頃によく使われていた音にはそういった開発事情があったんだろうなと音を聞きながら想像するのも面白い所ですね。

現代の技術でもう一度レトロをやると。

安井氏:当時の音っぽさを、今のやり方で効率よく作りたいので、「何故そうなっていたか?」はいつも興味がありますね。

シンセの音をそのまま使うってことはないですか?

安井氏:先の話しの通り、シンセそのままだとゲームのクオリティ感以上の音が鳴ってしまう事があるので、それが気になりそうなら使わないですし、シンセそのままでも聞こえ方に問題なく、作業効率も良ければ使いますが、稀ですね。

ただ自分の作業手順的には、前から使っている音源を使う事が多いので、改めてシンセなどから音を録る事はしばらくしていないですね。

既に手持ちの音色が用意されているんですよね。

安井氏:はい、自分の好きな音色で個性が出ている所もあるので、以前作った音色を別タイトルの曲に使う事も多いです。

他に、いつもこだわっているポイントはありますか?

昔のゲームサウンドの特徴に「発音数の制約」もあって、例えばドラムパートで言うと、バスドラムとスネアドラムは同じチャンネルでどちらか1音だけを鳴らすとか、クラッシュシンバルを鳴らしている間はハイハットを鳴らさない、みたいな定番の鳴らし方があるので、そういった発音数上限がある中での鳴らし方を意識しながら作ります。

基本的には「メガドライブ」、「X68000」といった、実際にあったハードのサウンドスペックを想定した発音数で作りますが、これまでの仕事で発音数などの仕様を厳密に守る事が最重要でもなかったので、普通に聞いていても分からないような細部まではこだわらないように気をつけています。性格的にはついやり過ぎた没頭をしてしまうので…。

「まものろ」や「エスカトス」はどういった環境を想定して調整されましたか?

安井氏:どちらも大まかな想定ですが、まもるクンは呪われてしまった!の最初のアーケード版ではナムコ SYSTEM II 基盤くらいで、エスカトスはX68000やグラディウスII -GOFERの野望-くらいのスペックをイメージしていました。

そういった細部にわたる拘りが安井さんの個性につながっているんだなと感じます。

安井氏:そうかもしれないですね。細かい話しだと例えば、FM音源で3音のコードを鳴らしていて次のコードに移る時、発音数の制限をせずに余韻のある音色を鳴らしていると、前の3音の余韻が残ったまま次の3音が重なって瞬間的に6音鳴っちゃうなんて事が起こりますが、FM音源時代のゲーム音楽はそんな贅沢な鳴り方を滅多にしないので、そういう部分で発音数制限には拘る部分もあります。

このあたりの音作りは、僕もゲストで参加させて頂いたヘキサドライブ様(@mugendan_jp)の「INFINITY BULLETS」というゲームのBGMでも思いっきりやっていますので、ぜひ遊んでみて頂けると嬉しいです。

ちなみに今回の「まものろKAI!」の新曲では新しい音源を使いましたか?

安井氏:VOPMも使いつつ、AvengerVitalSynthMasterなどを使いました。作り始めた当初はそこまで最近の音源を使うつもりはなかったんですが、いまの時代に改めて発売されるタイトルにはなるので、変化を入れたくて使うことにしました。

ただ90年代感の音も好きなので、UVI Synth AnthologyなどでOBERHEIMやDX100のブラス、JD-800やM1のエレピやシンセベルといった音も使ってます。

新曲のMEI-KAI Feaverの印象的なキックはどのようにして作られましたか?

安井氏:キックは、最初Sonic Academy Kick 2やNative Instruments TRK-01を試していたんですが、最終的にはサンプル素材を重ねながら調整して使いました。

特に意識するのは曲のキーに対する音程感や、アタック・サスティンの気持ちよさですね。

また和田貴史さん(@beagle_wada)の動画で知ったBrainworx bx_Subsynthで、サブベース帯域の補強なんかもしてます。

あ、ということは大きいスピーカーで聴くとズンズン来ますね?

そうですね。特別まものろのためにというわけではないんですけど、ゲーム音楽系のイベントにDJで呼んで頂く事もあったので、みんなで盛り上がれる事も意識しながら作っていました。

ゲーム音楽のイベントでDJを行う安井氏。柴犬Tシャツがキマってます。

そういうことであれば、ライブはもちろん、リスニングでも大きいスピーカーや低音の出るヘッドホンで、低域成分を是非チェックして欲しいですね。

後編へつづく

安井洋介出演の音楽イベントを開催!【まものろKAI! ~ リリース記念パーティー「YO-KAI Disco Fever」】

  • 日時:2025 9/26(金) 19:00~
  • 場所:パームス秋葉原
  • 出演:安井洋介、細江慎治、佐宗綾子、ヨナオケイシ、渡部恭久 -Yack.-

チケット好評発売中! https://t.livepocket.jp/e/yokaidisco/

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2008年にゲームセンターで登場し、「呪い」を駆使した独特の駆け引きと、ポップでキュートなキャラやBGMで人気を博したグレフのシューティング『まもるクンは呪われてしまった!』が現行ハードで復活。

ストーリーモードは新たにワイド画面に対応!ギャラリーモードやオンラインランキングも搭載。

歴代ゲームモードや追加キャラクターを全収録し、好きなバージョンのBGMで遊べるカスタム機能と、全BGMが視聴できるサウンドテストを新規実装。

そして、原作コンポーザー・安井洋介による新テーマ楽曲も収録!

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安井洋介

安井洋介(@yousukeyasui
主にゲームの音楽や効果音を作るサウンドクリエイター。
DJとしてイベントにも参加するなど幅広く活動中。
代表作に『まもるクンは呪われてしまった!』、『エスカトス』、『ギンガフォース』、『ナツキクロニクル』他。

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