【アクトレイザー・ルネサンス】古代祐三氏、quad氏インタビュー(機材編)

一世を風靡したスーパーファミコン用ゲームソフト「アクトレイザー」の登場から30年、大幅なリメイクバージョンとして「アクトレイザー・ルネサンス」がリリースされました。

初代アクトレイザーに引き続き音楽を担当したのはもちろん、古代祐三氏(@yuzokoshiro)。

今回は、作編曲を手がけた古代氏、そしてレコーディング、ミキシングを手がけたquad氏(@quad_luvtrax)のお二人にインタビューすることが出来ました。

Computer Music Japanらしく、アクトレイザーにどのようなプラグインが使用されたかなど、機材の話題が多めとなっていますので、かなり濃い内容です。

前後編と機材編、計3回に分けてお届するインタビュー、今回は機材編です。

前編はこちら➡︎【アクトレイザー・ルネサンス】古代祐三氏、quad氏インタビュー(前編)

後編はこちら➡︎【アクトレイザー・ルネサンス】古代祐三氏、quad氏インタビュー(後編)

古代祐三氏、quad氏インタビュー(機材編)

quad氏:今回のアクトレイザー・ルネサンスで使用した機材にふれる前に、古代さんのAncient Studioについて軽くご説明したいと思います。

ご存知の方もいるかもしれませんが、古代さんは90年代初めに当時の社屋に最初のスタジオを作られたのですが(当時のインタビュー などの写真で知っている方もいると思います)、その後はDAW中心の制作環境に移行したため機材もPC中心のシンプルなものになりました。

現在のスタジオができる前はレコーディングの際には外スタジオを使っていたのですが、2013年6月にスタジオ物件が見つかり、 私がプランニング、機材選定などをして現在のAncient Studioが2013年9月1日にオープンしました。

スタジオの詳細はまた別の機会に譲りますが、打ち込みが出来てスタインウェイのグランドピアノが置けるという最初期の条件をベースに 現在ではバンドで4リズムが録れるスタジオになっています。

90年代当時のスタジオの機材は残念ながら殆ど手放してしまわれたので、現在のスタジオが完成した時に残っていたメインで使えそうな アウトボードはAMEK CIB 1台と要メンテ状態だったSHEPのコンプ・リミッターくらいでした。

マイクもSM57が1本程度だったと思います。 せっかくピアノが録れるスタジオが完成したので、スタジオのオープンの時に数点機材を追加し、ステレオソースを録音するために導入した ff ISA TWOと、リミッターのUA 1176をアウトボードに加えました。

マイクもスタジオのオープンに合わせてU87Ai 1本とC414 XLII 2本を導入しましたが、C414 XLIIはエインシャントさん の社屋からスタジオに移設したピアノを録れるようにするために2本導入した経緯があります。

そこから少しずつ機材が増えていき、現在の状態になりました。 この機材編では一番アウトボード、マイクを使用しているフィルモアのリズム録りの時の写真を例に機材をご紹介していきたいと思います。

機材写真のパラメータの設定は基本的にはレコーディング時のものになっています。

AMEK CIB

キック、アルカレオネのピアノ、ストリングスやブラスのアンビのEQで使用しています。

また、Mic/Line側それぞれでFILTER/EQ/COMPのルーティングを選べるので、FILTERとCOMPはハイハットに使用してます。

一見1ch分のチャンネルストリップですが、使い方次第でMic/Lineそれぞれにルーティングが組めるので2ch分扱える便利な機材です。CIBはスタジオが完成した時に既に1台ありましたが、後に2台に増やしました。

音質的にはAMEK 9098EQとは違って、EQも滑らかな質感になります。

ff ISA TWO

このレコーディングでは使用していません。ISA TWOはスタジオ完成時にステレオペアで録音できるHAが無かったので導入した機材です。

UA 1176

ベースやギターで使用しています。この機材もスタジオ完成時に導入したものですが、1176は何にでも使えて便利なので何台あっても良い機材だと思います。

後述のUrei 1178もそうですが個人的には欠かせないリミッターで、外スタジオでの作業の時も1176と1178は使えるだけ使います。

Urei 1178

キックInとスネアTopで使用しています。ステレオで使うことはあまりなく、ほぼデュアルモノで使うことが多い機材です。

音色的には1176よりもソリッドになる傾向があるので、ドラムなどのアタックのあるソースに使うことが多いです。

この機種も1176同様に使い勝手も良く、音作りもしやすい好きな機材なので何台あっても良いと思います。

API550a

一時期日本のスタジオにはかなり導入されていたAPIコンソールのEQです。

APIコンソールはアルファレコードのStudio Aで知っている方も多いと思いますが、古代さんも過去にアルファレコードからCDリリースしている経緯もあり導入した機材です。

モジュールは現行品ではなく、ビンテージです。左からスネアTop、スネアBottom、ハイハットで使用しています。

このEQは周波数のポイントが使いやすく変化が分かりやすいので、音決めを迷うことなく決められます。

中域のパワー感が特徴的です。アクトレイザーでは未使用でしたが、ベースやギターなどに使うことも多いEQです。

Action

キックOut、スネアBottomで使用しています。ルックスは1176的な感じですが、アタック、リリースやリダクションの雰囲気は別のキャラクターです。

Trident 80B EQ

ベースとドラムのモノラルアンビエンスに使っています。またギターにも使用しています。Trident 80は日本ではかつてLDK Studioにあったコンソールです。

音色は明るく、特にHMF、LMFの効きの変化が分かりやすいEQです。 ベースに使ったのはAPI550aより少し明るい音色が欲しかったからです。

同様の理由でギターにも使うことも多いEQです。

Rupert Neve Designs 511

キックIn、キックOutで使用しています。アクトレイザー・ルネサンスでは基本的にダビングのメインのHAはこの機種を全て使っています。

扱いやすく、音色も良いので好きなHAです。

TEXTUREを使って倍音を調整しています。設定次第で軽いサチュレートから明らかな歪みまでの可変幅があります。

サイドラック左側

Vintech Audio 473

左からハイタム、フロアタム、トップL/Rで使用しています。トップは逆相にしていて低域が出る方に合わせています。ハイとローのEQがあるので、音質の微調整に使用しています。

ff Octopre Dynamic

今回のレコーディングでは未使用です。チャンネル数が必要な場合に使用することがあります。内蔵のコンプも使いやすいので良く使います。内蔵のADC/DACは未使用です。

Apogee Rosetta 800

ADCとして使用しています。

Warm Audio EQP-WA

キックOut、ベースのEQとして使用しています。
独特のサチュレーション感が特徴的です。

Behringer EURORACK PRO RX1602

コントロールルーム用のキューボックスとして使用しています。

サイドラック上段

SHEP DUAL LIMITER COMPRESSOR

トップL/Rで使用しています。また、アルカレオネのピアノでも使用しています。音色変化を利用してストリングスやブラスにもラインアンプ的にも使っています。

この機種はNeve 2254系のようですが、使いやすくするためにリペアした時にコンプ、リミッターともにリリースタイムを速くする改造をしてあります。

サウンドはNeve 33609/c以前やNeve 2254ともまた違いますが、リミッターとしての傾向は同じ雰囲気があり中低域が太くなる傾向があります。

ステレオリンクできるので、ピアノやシンセなどにも使うことが多いです。

Neve V1 EQ

トップL/Rで使用しています。また、ストリングスやブラスにも使用しました。Neve V1コンソールからノックダウンしたもので、音色変化がはっきりしているので使いやすいEQです。

Neve Vシリーズ、Neve VRは私も好きなコンソールです。

サイドラック下段


dbx 286A

ブースからのリッスンバックマイク用のHA/コンプとして使用しています。

ADR F601-RS

ドラムのモノラルアンビエンスに使用しています。ADRだとF760X-RSは比較的知られていると思いますが、この機種は更に珍しい機種でアタック、リリースともに速いリミッターで、アンビエンスを強調するためにゲインリダクション多めで使用しています。

Urei LA-22

今回のレコーディングでは未使用です。Urei 1176/1178とはエンベロープ、ゲインリダクションの雰囲気は違います。
中低域が安定した印象になるリミッターです。

AMEK 9098CL

タムに使用しています。ステレオリンクできるのでピアノやシンセなどのステレオソースにも使用します。

レコーディングで使われるのは珍しい機種だと思いますが、設定も分かりやすく音色変化も自然なリミッターです。


ニーはハードニーにしています。設定が選べる機種は基本的にハードニー(分からない場合は音を聞いて判断)に設定
して積極的に音色を作る方向で使用します。

Neve 3415(2台)

オールドNeveの3415をラッキングしたHAです。上段がn-toschさん、下段がambience sounddesignさんがラッキングしたものです。

上段左からハイハット、ベース、スネアTop、スネアBottomで使用しています。スネアのBottomは逆相にしています。

ブラスやストリングスのアンビエンスマイクにも使用しています。

FMR AUDIO RNC 1773、RNLA 7239

今回のレコーディングでは未使用です。スタジオが完成した頃にはありましたが、最近はリミッターの台数が増えたので使用頻度は減っています。個人的にはRNLA 7239が好きです。

Steinway B型ピアノ

アルカレオネで録音したスタインウェイ B型のピアノです。マイクはAKG C414 XLIIとモノラルアンビエンスでNeumann U87Aiを立てています。

このピアノは90年代にエインシャントさんの社屋にあったものをスタジオ施工の時に移転したもので、以前より雑誌などの古代さんのインタビューで皆さんが見たことのあるものです。

YAMAHA reface YC

レコーディングでオルガンで使用したreface YCです。MIDI接続したSEQUENTIAL Prophet Rev2で演奏しています。

フィルモア ドラムセット

フィルモアレコーディング時のドラマーの岡島さん(@Okajimahal)のドラムセッティングです。

フィルモアとアルカレオネはレコーディング時期が違うので、セット自体は同じですがキックのフロントヘッドとスネアが2曲で違います。

マイキングは次のとおりです。

  • Kick In Sennheiser MD421 U4
  • Kick Out Shure BETA52A
  • Snare Top/Bottom Shure SM57
  • Hi Hat AKG C451B
  • Hi Tom Sennheiser MD421-II / Floor Tom Sennheiser MD421 U4
  • Top AKG C414 XLII
  • Mono Amb Neumann U87Ai

基本的にスタジオにあるほぼ全てのマイクをドラムに使用しています。

殆どがダイナミックマイクで、スタジオにあるコンデンサーマイクはここに挙げたものに加えてオーディオテクニカAT4050が1本あります。

なお、ベースのDIはAVALON DESIGN U5、エレキギターのマイクはShure SM57です。

ピアノ、ストリングス、ブラスのオンマイクは2本あるコンデンサーマイクのAKG C414 XLIIを使用しました。

デスク右側

デスク右側にセットされたVUメータ、リサージュ、Roland SDD-320です。VUメータはSifam R22を使用した製品で、リサージュはDK AUDIO MSD100とどちらもスタジオでは定番のものです。

モジュレーション系エフェクタはこの機材写真の他にも幾つかあり、必要な時にセッティングしますが、使用頻度の高いSDD-320とCE-300は使いやすい位置に置いてあります。

Rolandのモジュレーション系エフェクタはサウンドも使い勝手も素晴らしいです。

総括

古代氏:SHEPの2254は95年頃購入したもので、当時の価格で90万円くらいしたと思います。

その当時購入、所有していた機材はほぼ全て売り払ってしまったのですが、これだけは音が素晴らしく、残しておきました。

SHEPのサイトや他のスタジオ写真などでも見たことのない、おそらく限定生産の超レアモノだと思います。

個人的にお気に入りの機材はMODEL473ですね。音はNeve3415のほうが好みですが、実は私、ノッチが付いている機材のほうが利便性も良くて好きなんです(笑) 

前面にInstrumentインプットが付いているのもポイント高くて、RND511が導入されるまではこればかり使っていました。

近年収録されているPC88のFM音源サウンドもほとんどこれを通しています。

quad:アクトレイザー30周年という記念すべきタイミングでリリースされた、アクトレイザー・ルネサンスにレコーディング、ミックスで関われた事を大変光栄に思います。

古代さんの作り込まれた楽曲やミュージシャンの素晴らしい演奏を楽しんでいただければ嬉しいですね。

アクトレイザー・ルネサンスのミックスは全てオンライン上でのやりとりで完成しましたが、私の現在進行中の仕事も録りの現場以外はほぼ全てオンライン上で行なっています。

また、商業スタジオ以外の様々なプライベートスタジオ等で録ることも増えたので、録りに関してもこれまでとは多少変化している部分はあるかと思います。

Ancient Studioは打ち込みから4リズムなど様々な作業ができるスタジオですが、私が2013年に行なったスタジオプランニング、機材選定などが今の古代さんの作業のお役にたっていれば嬉しく思いますね。

古代祐三

古代祐三@yuzokoshiro

主にコンピューターゲームの音楽を手がける作曲家、ゲームプロデューサー。 ゲーム制作会社株式会社エインシャント代表取締役社長。 代表作に『イース』、『イースII』、『ソーサリアン』、『アクトレイザー』、『シェンムー』、『湾岸ミッドナイト MAXIMUM TUNE』、『世界樹の迷宮』他。

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quad

quad@quad_luvtrax) 

レコーディング・Mix・楽曲制作をはじめ、マスタリング、PA、スタジオプランニング等幅広い分野で活動。リモート環境でのオンラインミックスダウン、オンラインマスタリングも対応しています。

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