Pulsar Massive は、世界中のマスタリングスタジオ使用されている、Manley Massive Passive EQ のエミュレーションプラグインです。
Pulsar社は以前、ManlayのVariable-MuをエミュレーションしたPulsar Muをリリースし大好評でしたが、今回のMassiveも、既に各所で高い評価を得ています。
参考記事:Pulsar Muレビュー【Manrey MU エミュレート】
そんな大注目のMassiveですが、ここではそのサウンドと基本的な使い方、一般的なデジタルEQとの違いなどをレビューしていきます。
Pulsar Massive
Massiveを触ってまず気づくのが、カーブ(帯域幅)がかなり広めに設定されていることだと思います。
これはもちろんオリジナルのManley Massive Passive EQ の再現なのですが、普段デジタルEQをメインに使っている方にとっては、この幅の広さはちょっと戸惑ってしまうかもしれません。
広さの参考として有名どころのデジタルEQと比較してみると、Massiveのベルカーブを最大値10.0に設定し10dB相当ブーストさせたときの帯域幅は、Fabfilter Pro-Q3 の幅0.7、Kirchhoff-EQ の幅0.5、Sonnox Claroの幅0.6と同等になります。
また、Massiveはゲイン量に応じてカーブの幅が可変するタイプで、ゲイン量が少ないとより幅広に、量が多いとより幅狭になります。
最大20数dBのブーストが可能ですが、その際も各デジタルEQの幅1.7〜2.5程度になります。
最大20数dBとぼかしてるのは、設定するバンドや周波数によって最大値が微妙に変わるからなんですが、この辺りはかなりアナログな雰囲気です。
アナログEQではこのような独特なフィルター設計が比較的多いですが、慣れてないと使いにくいと感じてしまうかもしれません。
でも、こういった動作が音楽的なイコライジングを可能にしていると筆者は感じます。
Massiveでイコライジングしたサウンドは
- 低域はクリアで高域はクリーミー
- 音像が若干大きくなったような感覚
- 低域をほどよくブーストすると重心が下がって勢いがつく
- 高域をブーストしてもハイハットやボーカル歯擦音が痛くなりにくい
- 中域をカットしたときは音の芯を削ることなくサウンドを引き締める
- 積極的にブーストしても破綻しにくい
このような特徴を感じました。
どんな素材に対してもクオリティを底上げできるようなEQだと思います。
設計上、細かいピークカットには向きませんが、ざっくりとサウンドメイクする際やマスタリングでのキャラ付けといったある程度広いカーブで処理する場面では最大限の効果を発揮します。
筆者は実機を使ったことはありませんが、Massiveを操作してしてまるでハードウェアを触っているような感覚になりました。
良い意味でも悪い意味でも、プラグインとしての最適化よりエミュレーションの再現度を重視したとわかる操作感でした。
悪い意味というのは、例えばバンド1〜4を全て1000Hzに設定しても微妙に1000Hzからずれてたりします。
特にバンド2は1000Hzに設定しても1200Hzぐらいに位置するんですが、こういった部分もオリジナルの完全再現にこだわっている印象です。
とはいえ、実機にはないカーブディスプレイがあるので基本的にこのディスプレイ上で操作していけば、戸惑うことは少ないかと思います。
オリジナルのManley Massive Passive EQ はパラレルEQ(並列処理)が大きな特徴ですが、Pulsar Massiveもその特徴が反映されています。
例えば一つのバンドである帯域をブーストし、別のバンドで近い帯域をブーストした際、一般的な直列処理EQだとカーブが重なる部分の音量がより大きくなり、サウンド破綻が生じやすくなりますが、並列処理だとカーブが重なる部分の音量変化はわずかで済みます。
下図は1000Hzと2000Hzを約10dBブーストした時の比較。直列処理EQ(赤線)はカーブが重なってブースト量が大きくなっているのに対し、並列処理のMassive(ピンク線)は変化量がわずかになっている。
その他、実機にない機能として
- Driveノブ
- トランス切り替え
- オートゲイン
- L/R M/S切り替え
- オーバーサンプリング
などがあります。
Driveノブではチューブドライブ量を調整できます。
トランス切り替えは 1 / 2 / OFF が選択でき、音質変化は少ないですが、高域の特性や倍音に影響します。
オーバーサンプリングは最大4倍まで対応しています。
負荷はそれなりに高くなりますが、4倍時はキメ細かく掛かるので、音像がわずかに立体的になる印象があります。
◆改善してほしいポイント
Shift押しながらバンドを移動させるとソロモードになるのですが、その時の帯域幅がかなり細めなのであまり意味を成さないように感じました。
また、設定をデフォルトに戻したい時にイニシャライズがないのが不便に感じました。
◆CPU負荷
CPU負荷は重い部類です。単体でCPU使用率約5〜6%、4倍オーバーサンプリングで25〜30%ほどになりました。(Pro-Q3は単体負荷0.2%程度)
- OS : macOS Big Sur 11.4
- CPU : 3.6 GHz 8コアIntel Core i9
- メモリ : 40 GB 2667 MHz DDR4
- DAW : Cubase Pro 10.5
- バッファサイズ : 512samples
- サンプリングレート : 48kHz
- ビット解像度 : 32bit float
- オーディオIF : Antelope Discrete 8 SC
◆まとめ
操作感は実機再現による癖がありますが、慣れてしまえばサウンドメイクからマスタリングの繊細な処理まで積極的に使いたいと思えるような、そんなマジックのあるEQでした。
同社のPulsar Muに手ごたえを感じた人は手に取って間違いないですし、アナログEQの選択肢を増やしたい場合にも初手でおすすめできる製品です。
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