SonarworksのSoundIDといえば、スピーカーキャリブレーションのSoundID Referenceで知っている方も多いと思います。
スピーカーに対する室内の影響を補正することで、まるでプロスタジオでモニタリングできるという夢のようなプラグインだったのですが、そんなSonarworksからまたしても夢のようなプラグインが登場しました。
今回紹介する「SoundID VoiceAI」はその名の通り、声をAI技術によって別の声に置き換えるというもの。
ボーカルをまったく別の声に変化させるどころか、ベース、トランペット、ドラムなど楽器の音に変換することもできるので、仮歌やデモ音源の制作工程がガラッと変わる可能性を感じさせてくれます。
SoundID VoiceAI
主な機能
SoundID VoiceAIの機能自体は非常にシンプルで、変換元のボーカルトラックにインサートして置き換えたい音声モデルを選択し、キャプチャーとプロセスという変換作業を実施するだけです。
リアルタイム処理ではないので、声を変えたい場合は再度プロセスする必要がありますが、一度プロセスした声は”Precessed”カテゴリに保存されていくので、その中であればリアルタイムに変更できます。
変換できる音声モデルは23種類あり、声の幅も広くハスキー寄りや高域の抜けが良い声質、子供から老人まで様々です。
ただし現時点で音声モデルは英語シンガーのみであるため、日本語歌詞のトラックを変換すると、若干発音が英語寄りになります。
それでも十分なクオリティではあるのですが、今後日本語シンガーの音声モデルも追加されるとのことなので期待できます。
楽器モデルは21種類あり、ドラム、ギター、バイオリンなどといったサウンドに変換できます。
使い勝手について
操作自体は非常に簡単でシンプルにまとまってはいるものの、クオリティを維持しようとすると、製品のクセを把握してAIが綺麗に変換できるようにお膳立てしてあげる必要がある、と感じました。
例えば、がなりやしゃくり上げなど歌唱表現が適切に変換させない場合があり、特に男性声から女性声の変換など、トランスポーズが発生した場合に顕著です。
もちろん、従来のボイスチェンジャーと比べると圧倒的にクオリティは高いのですが、綺麗に変換させるには表現を少し抑えて歌ってあげる必要があります。
また、楽器モデルへの変換については、上手く変換させるのが難しい場面もありました。
筆者の検証ではベースやトランペットは綺麗に変換できたのですが、ストリングスやギターは違和感のある音になりました。
特にドラムはキックとスネアに綺麗に分かれてくれず、歌い方にコツが必要です。
この辺りは正直まだまだ発展途上というところですが、仮歌やデモ音源レベルでは問題なく運用できると感じましたし、完パケ音源のメインボーカルとしては難しくても、コーラス生成で厚みを出すなどの用途では現時点のクオリティでも活躍できるように思います。
ロイヤリティーフリー
VoiceAIのプリセットはロイヤリティーフリーになっているので、VoiceAIで制作された音源は商用/非商用問わず自由に作品を使用することができます。
従量課金制
本製品は従量課金制が採用されていて、プラン毎に設定された「トークン」を消費するシステムです。
600トークン=1分間で一番少ないSmallパック(税込3,800円)で72000トークン、つまり約120分のプロセスが可能とのことです。
買い切りではないことで不安に感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、こういった画期的な製品は買い切りだと高価になる傾向がありますし、バージョンアップ毎にアップデート料金が発生する製品も少なくない中、スモールスタートしやすいトークン制はユーザフレンドリーかなと個人的に思います。
なお、トライアル版は7日間の期限で9,000トークン=15分のプロセスが制限なく利用できます。
CPU負荷
リアルタイム処理ではないので負荷は非常に軽く、数個インサートしただけでは負荷状況に変化はありませんでした。PluginDoctorのパフォーマンスでは0.2ms程度でした。
- OS : macOS Sonoma 14.1
- CPU : Mac M2 12コア
- メモリ : 64GB
- DAW : Cubase Pro 12
- バッファサイズ : 2048samples
- サンプリングレート : 48kHz
- ビット解像度 : 32bit float
- オーディオIF : Prism Sound Lyra1
まとめ
使い勝手については今後のアップデートに期待する部分はありつつも、核となる変換のクオリティは従来製品を大きくリードしていますし、日本語音声モデルも追加予定とのことで、VoiceAIで制作された音源が出回るのも遠くないと感じます。
画期的な製品であることは間違いないので、本番で使うかはよりも最新のAI技術に触れてみるぐらいの感覚でも良いのかな、と思います。