日本が世界に誇る 8bitミュージック・ユニットYMCK。
2022年9月30日に、3年ぶりのアルバムとなる「FAMILY INNOVATION」がリリースされました。
5曲目に収録されている「レトロ・リバイバル」の歌詞にもなっている”ゲームの音を入れただけで珍しがられた時代は良かった”という、8bitを知り尽くした者だからこそわかる心の叫び。さらには、自曲の8bitサウンドを別ジャンルへ自らセルフ・リアレンジするなど、相当聞き応えある作品に仕上がっています。
今回はメンバーを代表して、作詞・作曲・編曲を担当された除村武志氏にインタビューを行うことができました。8bitに詳しいDTMerであれば、除村氏がMagical 8bit Plugの開発者であることは知っていることでしょう。
また、2016年からYMCKの楽曲のミックス・マスタリング、ライヴPAなどを担当している、quad氏にも同席頂いています。
アルバムにかける思いから、楽曲制作に使用された機材の話など、盛りだくさんの内容になっていますので、是非最後まで読んでみてください。
- 1 YMCK FAMILY INNOVATION楽曲制作インタビュー
- 1.1 まずは個人的にですが、Magical 8bit Plugには大変お世話になっております!
- 1.2 3年ぶりのアルバムということで、コンセプトはどのようなものになりますか?
- 1.3 深いですね。歌詞もメッセージ性が強くてストレートに感じました
- 1.4 イノベーションに対して、どういった部分にジレンマを感じますか?
- 1.5 世界を俯瞰して見て、ふと我に返った時に感じる心の動きですかね
- 1.6 除村さんは様々な事に詳しくて、アプリ開発やプラグイン開発など、先手先手を打っているイメージがあります
- 1.7 意外です(笑)
- 1.8 セルフリアレンジについておうかがいします
- 1.9 どうしても(良い意味で)8bitのイメージが先行しますが、曲そのものの良さがYMCKがこれだけ長く支持される理由だと思ってます
- 1.10 あえて8bitから外れないというのは意識されていたんですかね
- 1.11 チップチューン界隈の雰囲気も踏まえてということでしょうかね
- 1.12 オンラインだと限界ありますよね
- 1.13 セルフリアレンジの男性ボーカルは栗原さんではなく、なぜ除村さんがご担当されたのでしょうか?
- 1.14 昔から一人で集中して作り上げていくのが除村さんのスタイルなのでしょうか?
- 1.15 じゃあピアノロールとか余裕ですね
- 1.16 3人とも作曲できるのは強いですよね
- 1.17 8bitの楽曲について、サウンドが重厚な気がしました。何か変わりましたか?
- 2 FAMILY INNOVATION
- 3 YMCK単独公演「INNOVATION CONFERENCE 2022」
- 4 YMCK
- 5 quad
YMCK FAMILY INNOVATION楽曲制作インタビュー
まずは個人的にですが、Magical 8bit Plugには大変お世話になっております!
除村氏:ありがとうございます!
quad氏:私もMagical 8bit Plugを使用していますよ。
除村氏:そうなんですね、素晴らしい(笑)
除村氏自ら使い方の講座動画も。8bitに興味がある方は是非チェックして欲しい。
3年ぶりのアルバムということで、コンセプトはどのようなものになりますか?
除村氏:アルバムのタイトルの通り『イノベーション』なんですが、その「イノベーション」で色々なことが便利になっているはずなのに「・・・あれ?何か全然よくなってないよね?辛くなるばっかりだなぁ」といったところにフォーカスしています。
深いですね。歌詞もメッセージ性が強くてストレートに感じました
除村氏:メンバーで集まって「次はどういうアルバムにしようか?」っていう会議をやるんです。そこで、物語っぽいアルバムにする案も出たんですが、それは過去2作でやったので、今回は「最近、色々思うところがあるので、そういうものをそのまま出したい」と、僕の方でゴリ押ししました(笑)
この問題意識みたいなのものは結構前からあって、3枚目のアルバムにもそういうテーマ性の曲があるんですが、そういったものを改めて出したって感じですね。
『フューチャー・インヴェージョン』にも除村氏の当時からの問題意識が込められている。
イノベーションに対して、どういった部分にジレンマを感じますか?
除村氏:イノベーションによって「こんなに便利な世の中になりましたよ」って言うけど、どこか不気味なんですよね。「”効率化”って人が減ることなんだけど、それって働く場所が無くなるってことだよね?」とか、様々な便利のために色々なサービスに身を委ねていますが「それって生殺与奪の権を委ねることになるよね?」という怖さとか。例えば今回のアルバムの2曲目『コンビニエント』ではハッキリと言ってはいないですがそういった部分を描きました。
あと、6曲目に収録した『イチオクブンノイチ』では「こんなに人がいっぱいいて、全体の何千万人の話って実感として想像できないよね」ということを言ってたりします。
世界を俯瞰して見て、ふと我に返った時に感じる心の動きですかね
除村氏:アルバムを作る前後に、経済関係の本とか読んだんですよ。「資本主義はヤバいのではないか?」というテーマとか。
除村さんは様々な事に詳しくて、アプリ開発やプラグイン開発など、先手先手を打っているイメージがあります
除村氏:自分としては、時代を先取りしたい気持ちはあるんだけど、全然出来てないなと。こういうことやったら楽しいんじゃないか?みんな驚くんじゃないか?って思いついたことは、だいたい先にやられてるんですよ。もうちょっと早ければ!って(笑)
意外です(笑)
セルフリアレンジについておうかがいします
除村氏:「曲そのものに見るべきところ(評価されるべきところ)があるのに、”ただのチップチューンの人”って思われているのはもったいない」って昔から言われてて。
どこかのタイミングで、チップチューン以外も出したいとずっと思っていたんですが、なかなか機会がなかったんです。でも、まぁ結構な年数(2023年で結成20年!)やってきたし、そろそろ出すかと。
quad氏:YMCK以外のリミキサーがアレンジするリミックスはあったけど、自身のチップチューン以外のアレンジはないですよね。
除村氏:これまでもリミックスを通じて、チップチューンではない”曲そのもの”を見てもらえる機会があるかなと思っていたんですが、リミックスだとリミキサーの方の解釈やアーティスト性が入るので、ストレートに伝わっていないのかな、と感じたんです。
どうしても(良い意味で)8bitのイメージが先行しますが、曲そのものの良さがYMCKがこれだけ長く支持される理由だと思ってます
除村氏:(チップチューン以外を)もっと早くやれば良かったかな、とも思うんですけど(笑)
あえて8bitから外れないというのは意識されていたんですかね
除村氏:冒険といえば冒険ですからね。まぁ、単になかなか踏ん切りがつかなかったのかなと。
quad氏:タイミングなどの都合で、これまでやらなかった大きな理由はなかったということですよね。
除村氏:その通りですね。あとは、最近チップチューンも、原理主義、いわゆる実機じゃなきゃダメだっていう考えが主流ではなくなってきたのかなと。ギター入れたり、ドラムの圧が強かったり、普通のシンセ使ってたり、あまり拘らないチップチューンが普通になってきてるんです。そんな中で、YMCKが「チップチューンではないもの」をやっても流れ的にアリなのかなと。
チップチューン界隈の雰囲気も踏まえてということでしょうかね
除村氏:両方でしょうね。単に踏ん切りがつかなかったということもありますし、互いに影響しあってますね。
quad氏:アルバムの構想自体はいつ頃からあったんですか?
除村氏:2020年初頭頃ですね。コロナウイルスが蔓延し始めていて「どうなっちゃうの?」ってビクビクしていた頃です。なので結構早くから動いてはいたんですけど、そのコロナの影響で、リリースするタイミングが分からなくなっちゃったんです。
出すからにはリリースイベントをやりたいなと思っていまして、オンラインイベントとかも含めて色々考えたんですが、結論が出ないまま時間が経過して、結果的にこのタイミングでのリリースとなりました。
オンラインだと限界ありますよね
除村氏:YMCKのようなスタイルをそのままオンラインライブでやると、映像見せるだけになっちゃうという懸念がありました。それと、お祭り感みたいなのがなかなか出ないんじゃないかというのもありました。楽器などを演奏するのであれば、オンラインでも価値があるのかもしれないけど、YMCKは打ち込みがメインだし、どう見せたらいいのか悩みましたが、結局良い案が思いつかなかったですね。あとはオンラインだと収支を立てるのが難しい。
YMCKのライブはVJ担当である中村氏が手がける、8bitサウンドとシンクロするコミカルな映像も魅力のひとつだ
セルフリアレンジの男性ボーカルは栗原さんではなく、なぜ除村さんがご担当されたのでしょうか?
除村氏:僕がそれを出したかったからです(笑)
一同:(笑)
除村氏:『レトロ・リバイバル』に関しては、ロックということもあって僕が歌った方が味が出るのかなと。『イチオクブンノイチ』に関しては、自分の出したかったニュアンスがあったので。
quad氏:セルフリアレンジの重要な部分ですが、当初、楽曲が良いからミュージシャンも交えて生で録った方が良いのでは?と提案したんですよ。でも、除村さんの中でこのような試みが初めてということもあり、プロダクトを全てYMCKで完結したいということだったんですよね。
除村氏:昔からそういうところがあるんですよ。学生時代に、一人で全パートを生演奏して8トラのカセットMTRとかに録って作ったアルバムとかあるんですが、それをもう一回やりたいなと。ちなみに、生演奏はギターだけであとは打ち込みですね。
昔から一人で集中して作り上げていくのが除村さんのスタイルなのでしょうか?
除村氏:そうかもしれないですね。セッションでバーンと作っちゃうのも好きですけど、集中してパート間の関係性を考えながら作るのも面白いです。
quad氏:除村さんは、作曲の時は鍵盤がメインですか?
除村氏:色々ですね。メロディを考える時はなるべく楽器を使わないようにしているんです。鼻歌をレコーディングして譜面起こしするとか。浮かんだメロディを何も音を出さずにそのまま書き出す、ということも一時期練習していました。でも五線紙ってなかなか手に入らないので、代わりにA,B,C,D,E,F,Gで書いてメロディをメモしたりしてました。鍵盤弾きながらだと手の方に引っ張られちゃうので、なるべくそうしないようにしてますね。
じゃあピアノロールとか余裕ですね
除村氏:そうですね(笑)
quad氏:コードが先ではなく、メロが先ですか?
除村氏:コードの場合もありますが、メロ先が多いのは間違いないですね。
quad氏:Midoriさんと、Nakamuraさんの作曲法は?
除村氏:Midoriは鍵盤弾きながら作ってますね。Nakamuraも鍵盤じゃないかな?メロディが鍵盤ぽいからわかる(笑)
quad氏:YMCKは三者三様で曲のタイプが違いますよね。
除村氏:今回のアルバムでは、Midoriの曲(ひこうき雲のフォトグラフ)が、僕が作らないような曲で良かったんですよ。「サビでそこのコード行くんだ!」って意外性があって。Nakamuraの曲は、最後の最後まで候補に残ったんですが、外れてしまいました。
3人とも作曲できるのは強いですよね
除村氏:そうなんですよ。曲のラインナップのスパイスになってるかなって。
8bitの楽曲について、サウンドが重厚な気がしました。何か変わりましたか?
除村氏:キックとかは変わってないんですが、スネアは厚めの音を使ってますね。今までは、頑なにMagical 8bit Plugで作ってたんですが、今回は「ま、いっか!」って(笑)
ディレイを多用したり、パンを振るようになりました。ちょっとずつ変わっていってますね。一つ一つは細かいですが、それぞれが積み重なった結果ゴージャスになっているんでしょうね。
先ほどもお話ししたように、世の中的に「チップチューンは純粋じゃなきゃ」っていう方向性が弱くなってきている気がするので、ちょっとずつリミッターを外していっている感じです。
後編へ続く➡︎3年ぶりのアルバム YMCK「FAMILY INNOVATION」リリース記念!楽曲制作インタビュー(後編)
FAMILY INNOVATION
DX時代に求められるマーケティングストラテジーと、AIによるビッグデータ分析をクラウドサービスでグローバルに提供するソリューションカンパニー・・・
そんな横文字だらけの「イノベーション」が私たちにもたらすものは何なのか。
そして日々の暮らしや愛すべき音楽はどうなっていくのか。
2004年以来18年間にわたり世界中でチップチューンを鳴らし続けているYMCKの9作目「FAMILYINNOVATION」は、そんな思いや疑問・心の叫びをかつてないほどにストレートな言葉で綴った入魂の一作。
YMCKならではの緻密な8bitトラックとソフトなヴォーカルを基軸にしながらも、そうした思いや叫びを反映したエモーショナルな楽曲が目白押しだ。
さらに今作では、あらゆるジャンルの音楽をチップチューンにしてきたYMCKが、逆に自らのチップチューンをチップチューンではないアレンジに変えてしまうという初のセルフリアレンジに挑戦。YMCKが持つ『曲そのものの強さ』がよりダイレクトに伝わるアルバムとなっている。
なお、リード曲である「ひこうき雲のフォトグラフ」は、本日より各種配信サイトにて先行配信開始。同曲MVではイラストとピクセルアートの出会いが繰り広げる、新たなるYMCKワールドを見ることができる。
「ゲームの音を入れただけで珍しがられた時代は良かったーーー」
変わりゆく時代の中で、進化し続けるYMCKの革新的ニューアルバムがここに。
MusicVideo
YMCK「ひこうき雲のフォトグラフ」Official Music Video
https://youtu.be/jhSYdR5w2vo
特設サイト
https://ymck.net/family_innovation/
DISC情報
【先行配信「ひこうき雲のフォトグラフ」】2022年7月22日(金)
【CD発売・全曲配信開始】2022年9月30日(金)
YMCK「FAMILY INNOVATION」
CD(amazonおよびオフィシャルサイト通販)
全11曲収録 ¥2,750(税込)
トラックリスト
1.夜明け
2.コンビニエント
3.グローバル・イノベーション
4.夕暮れのチャイム
5.レトロ・リバイバル
6.イチオクブンノイチ
7.大いなる「1」
8.ひこうき雲のフォトグラフ
9.レトロ・リバイバル(YMCK Rock Rearranged)
10.イチオクブンノイチ(YMCK Piano & Strings Rearranged)
11.ひこうき雲のフォトグラフ(YMCK City Pop Rearranged)
YMCK単独公演「INNOVATION CONFERENCE 2022」
コロナ禍、長引く不況、環境問題――激動の現代と来たるべきニューノーマルをサバイブするためのテクノロジー、そしてグローバル化に対応するためのイノベーション。「INNOVATION CONFERENCE 2022」では、未来を切り開くアントレプレナー、そしてカスタマーサティスファクションの主体であるすべての参加者を、YMCKのオーディオと映像が創り出すインタラクティブ空間でつなぎます。
会場では「FAMILY INNOVATION」収録各曲の披露のほか、チーフクリエイティブディレクターYokemuraによる基調講演、そして来年2023年に20周年を迎えるYMCKからネクストステージへ向けた新プロジェクトが発表される予定。
映像・演出・衣装を全てメンバーで手がけ、趣向を凝らしたパフォーマンスで定評があるYMCKによる、ニューアルバム「FAMILY INNOVATION」リリース記念単独公演
“イノベーションの、その先へーー”
「INNOVATION CONFERENCE 2022」2022年10月15日(土)、いよいよ開幕です。
公演情報
2022年10月15日(土)
YMCK単独公演「INNOVATION CONFERENCE 2022」
[時間]OPEN18:00/START19:00[会場]代官山 UNIT https://www.unit-tokyo.com/
[価格]¥3,500(1drink別)
[チケット情報]イープラス、ローチケ
YMCKオフィシャルサイト https://ymck.net/YMCK
「ファミリーイノベーション」特設サイト https://ymck.net/family_innovation/
YMCKオフィシャル通販サイト https://shop.ymck.net/
YMCKOfficialInstagram https://www.instagram.com/ymck_official/
YMCK情報Twitter https://twitter.com/YMCK_staff
YoutubeYMCK公式チャンネル https://www.youtube.com/user/officialymck
YMCK
除村武志(@Yokemura)
栗原みどり(@midori_kurihara)
中村智之(@YMCK_Nakamura)
男女3人から成る8bitミュージック・ユニット。自身の活動のみならず、楽曲提供、リミックス、映像制作、DJパフォーマンス、ゲームサウンド・プロデュース、音楽制作ソフトウェア用の8bitサウンド・プラグインやiPhoneアプリの開発など、国内外において幅広い活動を展開している。
quad
quad(@quad_luvtrax)
レコーディング・Mix・楽曲制作をはじめ、マスタリング、PA、スタジオプランニング等幅広い分野で活動。今回インタビューの「FAMILY INNOVATION」の制作でも活用した、リモート環境でのオンラインミックスダウン、オンラインマスタリングも行っている。